DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

産官学、そして軍の連携が生んだ、イスラエルのIoTスタートアップエコシステムとは

シリコンバレーを生んだアメリカ、フレンチテックを国策として掲げるフランス、圧倒的なスピードと生産力を持つ中国……。こうした大国におけるスタートアップの動向と離れた場所にありながら、世界トップレベルのスタートアップエコシステムを誇るのが中東の国家「イスラエル」だ。

2018年08月23日にDMM.make AKIBAにて開催されたイベント「Pitch Tokyo #3 (2018-19) イスラエル「IoT」スタートアップ特集」から、人口僅か約900万人の国家から次々とイノベーションが生まれる背景、そしてとりわけ勢いの増すIoTスタートアップの動向を紹介しよう。

 

プレゼンター:松山 英嗣(Aniwo, VP Business Development)
日本人新卒第一号としてAniwoにジョイン後、日本支社の事業開発をメインに、セールス・コンサルティング・リサーチ・採用・PR・イベント運営など幅広く業務を担当している。

イスラエルという国家が生んだスタートアップエコシステム

2.2万平方kmほどの面積に約900万人が生活しているイスラエル。天然資源に乏しく、地政学的なリスクにも晒されているため、産業・政府・教育機関・軍が強固に連携して高度な技術や人材・資金の獲得と流通に力が注がれている。ここにユダヤ人独特のネットワークが重なることで、4者が有機的に結びつくスタートアップのエコシステムが形成されている。

日本と大きく異なる点のひとつとして、徴兵制度が挙げられる。男女問わず高校卒業後に2-3年間の兵役に就くが、国防の最先端で実践的なプログラミングなどの経験を積んだ若者は、兵役終了後に企業で即戦力として働けるスキルを身に着けることになる。世界有数の軍隊組織における高度な教育が、優秀な人材の安定的な供給に繋がっているのだ。

産業面では、グローバル企業によるイスラエルスタートアップのM&Aは金額ベースで年々増加している一方、大学との間にパートナーシップを結ぶような繋がりも並行して存在している。テクニオン大学は2015年にMicrosoftとIoT特化のジョイントベンチャーを設立し、テルアビブ大学もNECを含む複数のグローバル企業との連携を行っている。ビジネスとアカデミアの距離が近いことも、イスラエルの特徴と呼べるだろう。

こうした国内外のつながりを積極的に支援するのが政府の役割だ。資金調達が困難な起業家への経済的支援、VCやグローバル企業を対象とした優遇政策やマッチングプログラムなどを制度として実施することで、資金の循環を加速しスタートアップのエコシステムを豊かなものにしている。

 

「技術ドリブン」のイスラエルスタートアップ

イスラエル発のテクノロジーのなかには、既に私たちの生活に溶け込んでいるものも多い。
Facebookは2012年にテルアビブを拠点として顔認識技術を開発するFace.comを買収し、タグ付け機能を強化した。同様に、2017年にAppleが買収したRealFaceの技術は、iPhoneXの顔認証システムに取り入れられている。顔認証以外にも、コンピュータのプロセッサや予測変換システムなど、多くの基盤技術に絡んでいるのがイスラエルのスタートアップの特徴だ。
アメリカ発のUberやAirbnbのような、ビジネスモデルドリブンでプラットフォームを作るような企業の数は少ない。収益のポイントが判断しづらいケースもあるが、コアとなる技術開発を進めた先で、開発のスピードを上げたい大企業に買収されるのが、主なイグジットのパターンとなっている。

イグジットに成功した企業を見てみよう。2017年にインテルにおよそ150億ドルという巨額で買収されたMobileyeは、自動運転のための支援システムを早期から手掛けていた企業だ。
元グーグル会長のエリック・シュミット氏が創業したInnovation Endeavorsによる投資を受けたWeissbeergerは、ビールサーバのIoT化システムを開発し、世界第3位の大手ビール製造会社アンハイザー・ブッシュ社によって8千万ドルで買収された。白黒のドットに邪魔されない新しいビジュアルQRコードを開発したVisualeadは、イスラエルにR&D拠点を設置し積極的な投資を進めるAlibabaGroupによって1千万ドルで買収されている。

このように、イスラエルにはアメリカや日本と比べても技術レベルの高いスタートアップが多く、かつイスラエルのマーケットが小さいためそのほとんどが最初からグローバル市場を想定したオープンな姿勢を持っている。2014年以降、2回にわたる安倍総理のイスラエル訪問などを受け、日系企業との付き合いも増加しており、2016年にはSONYがLTE向けの低コストモデムチップなどを開発するAltair Semiconductorの約250億円での買収を実施した。英語を第二言語としているためコミュニケーションがとりやすく、進出している日本企業の絶対数が少ないことからも、イスラエルのスタートアップとの交渉は進めやすい状況にあると言えるだろう。

 

注目すべきIoTスタートアップ3社

イスラエルでは400社を超えるIoTスタートアップが活動している。松山氏による進行に合わせ、会場ではその中から3社が紹介された。

 

① PLAYWORK……IoT×リハビリ

PLAYWORKが開発してるのは、リハビリ領域のためのスマートプラットフォームだ。超小型のセンサーをリハビリ用品に取り付けることで、利用者が積極的に楽しめるゲーム性のあるメニューを導入・実施したり、集めたデータを分析することでより効果的なリハビリの計画を立てたりすることが可能になる。保険適用のための書類作成も簡略化できるプラットフォームとして国内の病院や診療所で実証実験が行われており、近く市場への投入も予定されている。

 

② WISESHELF……IoT×リテール分析

WiseShelfは小売店向けの在庫管理システムだ。Eコマースの発展に伴い重要性を増すリアルタイムの在庫管理を支援するため、店舗内の明るさを検知する棚板(スマートシェルフ)を開発した。1000段階の明度を判断できるセンサーが詰め込まれたスマートシェルフは、機械学習によって明度の情報を在庫状況に変換し、従業員・店長・本社など立場の異なる利用者に各々適切なUIで情報を提供する。
3人の創業者は、それぞれ小売業界やITソリューション分野で10年以上の経験を積んだプロフェッショナルだ。技術を持つシニアがスタートアップを立ち上げることは、イスラエルではそう珍しいことではないという。

 

③ Softil……通信

Softilは(IoTと言えるか微妙だが)クロスプラットフォームの音声/ビデオ通信ソリューションを提供している。メーカーやOSに依存せず、複数台の仕様の異なる端末間でプッシュ・トゥ・トーク/プッシュ・トゥ・ビデオの通信を行うことができる。映像中のデモでは多くのWI-Fi信号が飛び交う難易度が高い状況のなか、LTEではなくWi-Fiを利用してほぼ遅延の無い通信を実現している様子が見て取れた。
今後は警察や鉄道など、極めて高い信頼性が求められる現場での導入を目指す予定だという。通信などの低レイヤーの基板技術においても、イスラエルは強い存在感を示していることが感じられる。

天然資源の少なさや地政学的なリスクを抱えながら、スタートアップ大国として成長を続けているイスラエル。
世界に通用するスタートアップを育んできた背景には、産官学、そして軍の綿密な連携がハイレベルな技術開発を後押しし、製品・サービス化に至るまで支援する独特なエコシステムが存在していた。

 

(取材・文:淺野義弘)

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