DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

企業は深センをどう活用するべきか?深センの「ものづくり」の現状

ハードウェアのシリコンバレーと呼ばれ、多くの企業が密集している中国の都市深セン。

そのエコシステムを企業が生かすためには、深センならではの独特な文化や慣習を理解する必要があります。深センの現状と付き合い方をテーマとして、2018年2月21日にDMM.make AKIBAで開催されたイベント「企業は深センをどう活用するべきか?深センの「ものづくり」の現状」の様子をお伝えします。

 

「深センを一言で語る人は信用できない」

 

高須正和氏

 

最初のプレゼンターはスイッチサイエンスの高須正和氏。2014年8月から日本の有志を集めて深センの観察ツアーを主催しており、現在は深センに居住しながら現地のレポート発信や書籍の執筆を行うほか、MakerFaireShenzhenの運営にも深く関わっています。高須氏は深センの変化のダイナミズムを力説しました。

 

「深センには東京都と同じくらいの面積に1500万人が住んでいます。その中には国際特許の取得に力を入れている企業があれば、コピー天国が広がっている地域だってある。地下鉄の路線が3年で7本増えるくらい変化のスピードもすさまじく、深センでの1週間がシリコンバレーの1か月とも言われています。それくらいスピードが速くて、混乱している場所なので、フラッと3時間くらいだけ滞在して一言で深センをまとめるような情報はあまり信用していません(笑)」

 

続いて、今回のイベント名にもある「深センのものづくり」が指す範囲について、高須氏は具体例を交えながら会場に説明していきます。

 

「たとえばLEDが3つ光るだけのプロダクトを作ろうとしても、単純に並列に接続するだけでは、プロトタイプ時はよくても、そのまま量産すると40%の製造不良が出てしまう。実際に量産して販売するためには、『マイコンを追加して制御すれば単価は上がるが、歩留まりは良くなる』というように、全体のコストや納期を俯瞰したうえで精緻な設計を行う必要があります。

量産はスタートアップの苦手とする部分ですが、逆にその前段階、つまり一品物のプロトタイプすら完成していない状態ではEMSと仕事を始められないので、深センに来てもあまり意味はありません」

 

ボトムアップ的サプライチェーンが迅速な開発を可能にする

 

藤岡淳一氏

 

ジェネシスホールディングスの藤岡淳一氏は2001年から深センで製造業に携わり、主に日本企業向けの電子機器受託製造を手掛けています。

自社工場も保有する藤岡氏は深センの歴史を紐解きながら、「すべてのベンダー・業種が何百何千という規模で深センに密集している。買えない部品はないし、何かあれば30分で直接やりとりできる。こんな場所は世界中を探してもどこにもない」と語りました。

 

藤岡氏によれば、深センのサプライチェーンの歴史を追うと、1990年代には来料加工貿易が多く大ロット少品種生産が中心でしたが、2000年代に入り大ロット多品種生産が主流となり、白牌(バイパイ)と呼ばれるノーブランド製品が普及しました。

その後、2010年代には人件費や物価の高騰を受け、優秀な部品メーカーだけが深センに残るようになり、それまで受託開発が中心だった設計会社は、MP3プレイヤーや携帯電話など、ある種類の製品群に利用できる基板を一般向けに販売するようになります。特定の製品に対して独自に設計された「私板(プライベート・ボード)」と対比して「公板(パブリック・ボード/ゴンバン)」と呼ばれるこれらの基板は、同じく誰もが購入可能な外装である「公模(パブリック・モールド/ゴンモウ)」とあわせ、構成部品さえ集めればプロダクトの製造が可能という、シェアリングエコノミー的なスタイルを確立することになりました。スクラッチで開発する必要がなくなり、小ロットでの製造もとても容易になったのです。

 

「深センには「方案公司(ソリューション/デザインハウス)」という各種デバイスを司る司令塔のような会社が多く存在し、作りたいものの相談をすると、公板と公模をかき集めてBOMリスト(Bill Of Material、製造に必要な部品とコストをまとめたもの)を作成します。時には調達先の担当者氏名や電話番号まで載っているこのBOMリストを基にして詳細を詰めていくことで、大体1週間くらいで全体の見積もりが出てしまいます。このスピード感が深センを利用する上での重要なポイントでしょう。

 

日本での開発だと、メールを送って、見積もりを取って、時間がたって、契約書のひな型を用意して……としているうちにあっという間に時間が経ってしまいます。深センではそういった前置きがありません。電話をかけて『今行く」『じゃあ待ってる』みたいな感じでコトが進む。特にIoTのサービスは、人件費もバカになりませんし、サービスインするまでのリードタイムが短いことは強みになるんじゃないでしょうか」

 

質疑応答

イベントの後半は、会場からの質問をもとにしたディスカッションが行われました。スタートアップを中心にハードウェアビジネスをサポートする、FORMURAの西野充浩氏も議論に加わります。

 

Q.深センで作るプロダクトに向き不向きはあるのでしょうか?

 

西野充浩氏

 

西野「深センのサプライチェーンの特性上、世の中でコモディティ化されたものを作るメリットが大きいです。逆に、超最先端のものや需要の少なくなった古いものは流通していません。設計のノウハウやプロダクトの質の担保という点では、日本に軍配が上がります。」

 

藤岡「中華部品は質のばらつきがひどく、動作はしても経時劣化で故障に繋がってしまうので、3~5年持たせるようなプロダクトには向いていません。金型のノウハウもたまっておらず、成型部品には必ず塗装する必要がありますが、そのあたりのレベル感が分かると深センを使いこなせるのではないでしょうか。

 

また、モノそのものの新しさで勝負するような珍しいプロダクトはパクられるので、深センで出さないほうが良いと思います。クラウドファンディングが始まったら本家が出る前に似た商品を出すような、ある種モンスターみたいな人たちなので」

 

高須「ひとつのプロダクトを同じ価値で数年間販売したい、みたいなことは考えないほうが良いです。大ロットで作ったモノを短期間で売りさばき、コピー品が出て来たらまた別の発明をして生き延びていくようなスタイルが参考になります」

 

Q.仕事の進め方で気を付けるべきことはありますか?

 

藤岡「指示という言葉自体があまり意味を持たないんですよね。全ての工程でこちらが主導権を握ろうとしないで、細かいことを言わずにまずはモノを作らせてみる。そうして出てきたものに対してフィードバックをして精度を上げていくのが良い方法だと思います。中国の人たちはゼロからイチを作るのが苦手ですが、後から追加したりするのは喜んでやってくれます」

 

西野「深センの工場にはダイレクトに依頼せず、香港のパートナーに進行を管理してもらっています。日本流のやり方をそのまま深センに持ち込もうとするのはとても大変で、モチベーションにも乖離がありすぎてスケジュールが全く進みません」

 

Q.公板を利用する際に知財の問題は生じないのでしょうか?

 

高須「公板はCPUが組み込まれたレファレンスボードのような位置づけです。プログラミング言語のサンプルコードみたいなもので、知財をめぐる争いという考え方とは遠い場所にあります。そもそも公板に搭載されたCPUが分かったからといって、技術的なハードルがあるので誰もそれを作れません。

 

同様に、深センで生き残るDJIのドローンやinsta360の360°カメラなどの洗練された企業のプロダクトは、中身を見たからって簡単にはパクられないんですよね。知財で守られているから残っているのではなく、分解されても真似できない高度な技術によってプロダクトの価値が保たれています。

 

Q.公板を使っている場合、品質は日本人のクレームに耐えられますか?twitterなどで炎上しませんか?

 

藤岡「方案公司が出してきたBOM通りに作ったとしたら、正直耐えられません。JENESISでは彼らが提示したリストを参考にはしますが、まったくその通りに作ることはありません。そのまま採用すると、組み立てる前から部品が膨らんでたりする。バッテリーの品質なんかは顕著に差が出ますね。提示されたBOMから何をチョイスするかは、お金のかけ方や依頼する企業の考え方に委ねられています。

 

また、量産設計の段階でファームウェアのデバッグや品質保証を担当するのも方案公司の仕事になります。部品会社の10倍ほど数がある方案公司のなかから、どこと付き合うかを決めるのも重要なポイントです」

 

Q.仕事で騙されたことはありますか?

 

 

藤岡「私たちが騙されたと思っても、向こうはそう捉えていません。でも、やっぱり一番つらいのは夜逃げ。突然、あらかじめ逃げる日を決めていた経営者が笑顔でいなくなるんですよね。入れたお金も戻ってきませんが、これはある程度の割合で発生する事実だと割り切るしかありません。そのうえで、仕事を一社だけに集中させず分散していく必要があります」

 

Q,今後深センはイノベーティブなプロダクトを象徴するようなブランドになっていくのでしょうか?

 

高須「最初にも言った通り、深センと一言で言ってもその範囲はとても大きい。バクリや夜逃げが当たり前にある一方で、しっかりユーザ―リサーチをして、デザインにも力を入れて、国際特許を取るようなエリート集団もたくさんいる。本当に、なんでもあるのが深センです」

 

会場からの突っ込んだ質問に大いに盛り上がったトークセッション。最後に藤岡氏は「日本・深センのそれぞれの良いところを、これから起業するような人たちがフラットに使うことが理想。せっかく素敵なサプライチェーンの近くにいるのだから、仕事でもプライベートでも足を運んで、これからの仕事やプロジェクトに活かしてもらえると嬉しいです。」と会場に呼びかけました。

 

 

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