DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

人材のプロに聞く――新規事業に必要な人材の「橋渡し力」とは

今回お話を伺ったリクルートエージェントの井上和真氏、福井耕造氏、長尾悠氏(左から)

 

近年、自動車業界から家電業界、産業機器分野に至るまで、「IoT」というキーワードと共に、その取り組みに向けた課題も指摘されている。製造業では社内でIoT開発が難しい場合、社外へ開発委託する選択もあるが、経験のない新規事業の立ち上げを手探りで進めることも多い。

 

製造業とIT系、畑違いといえる企業がうまく連携するために、何が必要なのか。転職エージェントサービス大手のリクルートエージェントの「製造業」、「業務系IT」、「ウェブ系IT」各領域の転職スペシャリストに、製造業とIT系企業の協業や、バックグラウンドが異なる人材を採用する場合に起こりうる課題について、お話を伺った。

 

――DMM.make AKIBAでも、大手企業からIoT人材の育成方法や、事業そのものの立ち上げに関する相談を頻繁に受けます。
皆さんはそれぞれ業務系IT、製造業、ウェブ系ITといった分野での転職サポートをされていますが、ここ数年のIoT関連の求人はどのような状況にあるのでしょうか?

 

業務系ITでは既存ビジネスの中にIoT化のニーズがある

福井氏:まず、SierやITベンダーに代表される業務系ITですが、発注先の業界としては金融、産業、流通などが主流となっています。
IoTについては既存事業で何が出来るかがキーワードです。例えば基幹システムなど重厚長大なシステムを生かしつつ、スマホやタブレットのアプリを開発する人材を求めたり、得意領域であるインフラを使ってデータを蓄積し、それをベースとしたビジネスモデルを展開する、というような事業戦略が考えられます。これによって求める人物像が変わってきます。

特に工場自動化を目指す製造業向けの業務系ITでは、ネットワークの無線化・高速化によって、IoTの活用が進んできていると思います。これまで有線に縛られていたことでも、セキュリティ対策が向上して信頼性が増し、無線で多くのことが出来るようになりました。今後5Gの導入で通信速度や信頼性が飛躍的にアップすると言われていますから、さらに無線化が進み、人材の要望は多くなるでしょう。

 

職種別の転職求人倍率(2018年7月時点)は、IT系エンジニアが3.53倍、機械系電気系エンジニアが2.97倍と、全体の求人倍率(1.80倍)と比較しても高い水準にある。出典:株式会社リクルートキャリア

 

――基幹システムなどインフラ系の開発をしてきた人が生産現場に入ってネットワークやセキュリティを考える場合、必要になる知識や経験はありますか?

 

福井氏:ネットワークやセキュリティという観点でみると、生産現場でも同じですから、新たな業務知識は不要でしょう。ただ、扱うデータやシステムの規模感は違うでしょうから、業務の定義は必要です。また、セキュリティ関係は特に人材が不足しているので、キャリア開発は重要です。もちろん実際の工場がどのような仕組みで稼働しているかなど、大枠で勉強していく必要があるのかなと思います。

業務系のIT開発とインターネット系の開発では、開発プロセスもずいぶん違います。ネット系では開発がオープンソースのテンプレートを使うようになってきていますが、業務系システム開発では、信頼性の観点や開発規模の大きさから、一からスクラッチ開発を行う事も多いです。アジャイル型とウォーターフォール型のような違いもありますし、こうしたプロジェクト開発の知識が必要になります。

 

製造業は、既存事業のIoT化と工場自動化が2本柱

井上氏:製造業の領域では、2つの動きがあります。1つは既存の製品に対するサービスを、IoTを使った新規事業として起こすこと。そのためにデータサイエンティストを採用して事業を作る動きが徐々に出てきていますが、全体としてはまだこれからという感じです。もう1つは、工場自動化を実現するために既存の設備をどう接続するのか、ラインから得られるデータをどう活用していくかというところになります。こちらはIndustry 4.0の流れで2、3年前から取り組む企業が増えてきています。

 

――工場自動化のために、生産技術系のエンジニアがIoTを導入しようとしたとき、必要となるノウハウや知識はどのようなものでしょうか。

 

井上氏:生産技術には、機械や電気制御がわかる人は多いですが、ITやネットワーク、セキュリティといった知識を持っている人がいないため、社内SEなどITインフラを支えている人が一緒にやるケースが多いようです。ただ、社内SEを多く抱えているような企業でない限り、生産系エンジニアもITに関する最低限の知識を持つ必要があります。自動化の開発に外部ベンダーを使う場合でも、知識がないと指示も出せません。自動化できるエンジニアが欲しいという求人はここ2年ほどで増えてきていますが、多くの製造業がこの部分に弱さを感じているためだと思います。

ただ、データサイエンティストとかデータアナリストなどは新しい職種で、どのようなスキルが必要なのか、要件定義も曖昧な求人が多いです。バズワード化していて、企業側も十分に理解せずに求めているところがあり、要求レベルが高くなって適材がいないとか、応募する側も何が求められているかわからないという、雇用のミスマッチが生じています。

 

ウェブ系ITには、ものづくりのノウハウが全くない場合が多い

長尾氏:ウェブ系ITでは、主にB2Cのインターネットサービスが該当します。インターネット系の会社でも、実際にモノを伴うサービスを提供するケースが増えてきており、そうした企業からはものづくりに必要なビジネスノウハウを持っている人が欲しいという要望を聞きます。在庫管理や物流など、「製品」を動かした経験がなく、チャネルセールスの経験者も少ない。製造業では考えられないことですが、製品の原価計算ができる経理もいません。

また、ハードの部分は大手メーカーと連携し、制御ソフトやクラウドデータの活用に注力するベンチャー企業も多いです。この場合、自社にハードウェアの専門家は必要ありませんが、メーカーと仕事をするための橋渡しが必要です。大手メーカー特有の仕事の進め方や作法がありますから、そうしたカルチャーの違いを理解し、ハードとソフトの仲介ができる人が必要になります。

 

製造業とIT系企業、転職時のハードルとは

――インターネット系の会社では、ハードをわかる人材を社外に求めることも多いと思います。その場合、製造業などハード関連業界からの人材を受け入れる側に必要なことは何でしょうか。

 

長尾氏:意外かもしれませんが、人事制度や福利厚生の違いが最初のハードルになります。日本の製造業には退職金制度があり、住宅手当など手厚い福利厚生もありますが、インターネットの世界ではあまり聞いたことがありません。製造業にいる方は、退職金などを含めた生涯年収という捉え方をされる方も多いですので、提示年収が上がったとしても、トータルを見ると収入減になっているケースもあります。

入社後に多いのが、仕事の進め方の違いです。長い歴史のある製造業のように、役割分担や業務の流れが明確に定義されているところから、slackやチャットをどんどん捌きながら仕事を進めるような、ある意味混沌とした職場に来るわけですから、戸惑われる方も多いです。

 

出展:転職者に実施したアンケート結果から、「入社後にとまどったこと」の上位3項目は「前職との仕事の進め方の違い」「業界用語等が分からない」「職場ならではの慣習」。職場単位での細かな「すり合わせ」が必要なことがわかる。出典:株式会社リクルートキャリア

 

製造業では、不具合や事故が起きないよう、検証を繰り返しながら緻密に作っていきます。これがウェブITだと、まずはリリースして後から改修しようという真逆の考え方になります。この開発の価値観の違いが原因になり、技術がフィットしても短期間で辞めてしまうケースもあります。

 

井上氏:製造業とIT系では、考え方や価値観に大きな違いがあります。製造業では、自社サービス、自社製品に対する誇りが強く、コアになるものは自分たちで作る、それほど重要ではないものを外に出す、という考え方があるように感じます。そのため、派遣業務に対するアレルギーのようなものがあり、IT系では当たり前になっている客先派遣の開発だと聞くと、重要な業務を担当させてもらえないと感じる人もいます。

 

――IT企業が製造業から来た人材を活用しようとする場合、製造業のこともある程度知る必要があるということでしょうか。

 

長尾氏:先ほどの例、IT系ではリリース優先で後から改修するという点ですが、私はカルチャーの違いだと思っています。製造業だと完璧な製品を作ること、原価を守って利益をだすことが至上命題であり、戦略だと思います。これがインターネット系だと、まずは出してユーザーの反応を見て、必要ならすぐに変えていくという戦略をとります。ただ、これを製造業から来た人が理解するのは難しいと思うので、その事業戦略や方針をしっかり会話しながら伝えていく必要があります。育ったカルチャーが違うという前提で、理解するまで伝えるというマネジメントの課題です。

 

井上:このところ、化粧品メーカーやタバコメーカーが自社でハードウェアを開発するケースが増えました。うまく行っている事例では、開発のトップにメーカー出身者を置き、その下にエンジニアを配置しています。ハードウェア事業を立ち上げて、そのトップにある程度任せる体制ですが、製造業から新たな転職者を受けいれする場合に、同じような環境で働いてきた人と会話ができるのは“居場所がある”という、安心材料になります。

 

転職決定者へのアンケートから「入社を決めるにあたって誰から影響を受けたか」に対する回答で最も高いのは、「配属される職場の職場長・責任者の影響(44.9%)」。特に異なる職種への転職では配属先でのマッチングに不安を感じる人が多い。出典:株式会社リクルートキャリア

 

――製造業、IT系問わず、新規にIoT事業を立ち上げる場合、そのプロジェクトマネージャークラスの人は、ハードもソフトも、ある程度理解していることが重要だということでしょうか。

 

全体を見られるエンジニアが必要だが、企業内に横断的な知識を学ぶ場がない

井上氏:製造業にもプロマネはいますが、元々のバックグラウンドが機械工学出身、電気電子出身、情報出身なのかで違いますし、これまでの社内教育が「深く・狭く」を良しとする文化でしたから、広く横断的にやれる人材がほとんど育っていません。IoTは、ハードもソフトも絡みますし、そのサービスまで考えられるような人がいないということは、大きな課題だと思います。

 

長尾氏:ウェブ系ITでは、デザインやエンジニアリングからマーケティングまで、一つのチームでやるような横幅の広さがありますが、製品の品質保証といった、ものづくりの視点が抜けています。異なるファンクションを束ねるスキルはありますが、ものづくりならではのノウハウは学んでいく必要があると思います。

ですが、社内で独自に学べているという例はあまり聞いたことがありません。別にゴリゴリとハードウェアを作れるようにならなくてもいいですが、ハードウェアの基礎の基礎、入門のようなコンテンツがあればと思います。例えば副業や社外のmeetupイベントへの参加等、業種を越えた交流を通じて技術領域を広げるといった経験を通じて、IoT開発に関わる全体像を学び、社外や社内のハードウェアエンジニアと話ができる程度の知識を短期間で身につけられるコンテンツが求められていると思います。

 


井上 和真(左)
商社にてものづくり全般を経験した後、製造業に対するエンジニアのキャリア支援、採用支援に10年以上従事
現在は半導体、先端デバイス、AI/IoTを専門に企業の採用アドバイザーとエンジニアのキャリアアドバイザーを兼務

福井 耕造(中央)
広告会社を経て、リクルートエージェント(現:リクルートキャリア)に入社。
製造業系領域を経て、現在担当しているIT・コンサルティング領域の企業側アドバイザーを担当。
入社から一貫して、企業側アドバイザーを担っており、担当クライアントとしても
製造業界、ITコンサルティング業界の大手~ベンチャー系企業まで幅広く担当。

長尾 悠(右)
2006年に、通信キャリアから現職へ中途入社。
インターネット業界向けの採用支援営業、マーケティング・事業開発などを経て、
現在は、企業の採用と組織の両課題を同時解決するHRカタリストとして従事。
趣味はサウナとキャンプ。

 

 

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