DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

企業人はスタートアップの戦い方を知るべき――IoTねこトイレで世界進出を目指す「ハチたま」のチーム力

DMM.make AKIBAが実施するアクセラレーションプログラム「Open Challenge」。

2016年12月に第1回を開催し、これまでに多くのスタートアップが参加し、プロダクトやサービスをブラッシュアップしている。

 

今回3期目となるOpen Challenge 3に参加したスタートアップの中から、ねこが使うトイレをモニタリングし、泌尿器疾患の予防と早期発見を実現するIoTねこトイレ「TOLETTA(トレッタ)」を開発する株式会社「ハチたま」に、Open Challenge参加者として生の声を聞かせていただいた。

 

チャレンジと発見、そして失敗とピボットを積み重ねながら、大きな成功を目指すハードウェア・スタートアップはいかにしてプロダクトを開発しているのか。大企業とは異なるスタートアップの戦い方を知ることは、オープンイノベーションを目指す企業人にとっても参考になるだろう。

 

株式会社ハチたま代表取締役 堀宏治氏(中央)、エンジニア 廣山篤志氏(右)、インターン Ashley Fulton氏(左)

 

――始めにハチたまの会社紹介と、IoTねこトイレ「TOLETTA(トレッタ)」を考案された経緯について教えてください。

 

堀:最初は「ペットのIT」という大きな枠組みで、株式会社ペットボードヘルスケアを2016年に設立したのが始まりです。

ハチたまではねこをターゲットに、「ねこが幸せになれば人はもっと幸せになる」というコンセプトでやっています。僕たちが考える幸せは、健康で長生きしてくれることだと思っていて、ITを通じて世界中のペットを幸せにしたいと思っています。

 

IoTねこトイレ「TOLETTA(トレッタ)」

 

ペットの健康状態は飼い主にはわからないことも多い

堀:僕は普通のペットの飼い主で、獣医師でも専門家でもありません。病気のこともわらかないことが多くて、ペットの調子が悪そうでも、動物病院に連れて行くべきかどうかがわからない。心配すべきかしなくていいのか、教えてくれる人もいない。ペットの健康に関しては、情報の非対称性が大きいと感じていて、これをなんとか解消したいと思っていました。

 

この課題を解決しようと、最初にテレビ電話システムを作りました。当時は、「獣医師のオンライン動物病院」と呼んでいましたが、獣医師さんと飼い主がテレビ電話を通じてコミュニケーションできるシステムです。獣医師のノウハウを家に居ながら簡単に得られる、わからないことがあれば気軽に相談できる、ペットの状態に合わせたアドバイスや食餌、サービスが提供できると考えていました。

 

でも、これは結局うまくいきませんでした。ペットの健康といっても、毎日相談したいという人はそれほどいませんし、始めてから3カ月くらいで見切ってクローズしました。

 

テレビ電話から自動給餌機、失敗しながらも次へのヒントを

堀:次にフードに着目し、カメラ付の自動給餌器、スマートフォンで部屋の様子をみながらご飯をあげられるという製品があったので、OEM提携しましたが、これもうまくいきませんでした。

 

僕たちは、毎日得られる情報が欲しいのですが、お客様の自動給餌機の使い方は、留守のときだけというケースが多かった。普段は自分の手でペットに餌をあげたいから。それに給餌機自体も製品に目新しさがなくて導入数が増えず、これも3カ月ほどでクローズしました。

 

お客様のニーズから、製品化のアイデアを得る

堀:この自動給餌機ですが、Wi-Fiにトラブルが出て映像がうまく映らないという不具合がありました。お客様のところを何件か訪問して修理したのですが、ペットはねこばかりでした。なぜねこが多いのだろうと疑問に思って飼い主さんに尋ねると、旅行などで留守にするとき、ねこはペットホテルに預けにくいので給餌機を良く使うと聞きました。そのときにあるお客様に「トイレをやらないの?」と言われたことがあり、ねこのトイレに興味を持ちました。

 

実は僕は犬を飼っていて、ねこのことは詳しく知りません。でもこれだけねこを飼っている人がいるならばと、2017年6月頃にねこにフォーカスすることに決めました。それからねこ好きを条件に新たにスタッフを募集すると、ねこを飼っていてIoT給餌機を自作している子とか、ねこ用に見守りカメラを自作してたりという子が応募してきました。

 

新メンバーは、ねこの飼い主から集める

堀:ねこの飼い主でもあるスタッフたちから、特にねこは泌尿器の病気になりやすいのでトイレチェックが大切ですと言われて、以前のお客様の言葉を思い出しました。それが、ねこのトイレを開発しようと決めたきっかけです。

 

――飼い主が何を求めているのかを知り、製品の機能やイメージが決まったのですね。

 

堀:2017年8月に、ねこのトイレを作ると決めました。ただ、このときは自動で清掃してくれるトイレが便利だから、清掃機能付のトイレを作ろうと思っていました。アメリカには自動清掃機能付のトイレがすでにあったのですが、日本ではまだ普及していない。これはチャンスだと思い、アメリカのトイレを買ってきて改造したのが、最初のプロトタイプでした。

 

当時は自動清掃機能がメインで、便利機能としてねこの体重や尿の量を測ろうとしていましたが、この清掃機能を作ることが実際にはものすごく難しいことがわかりました。

 

実は、アメリカの自動清掃トイレは雑な作りで、掃除しきれていません。

うちのスタッフに使わせてみても、とても日本人の感覚には合わない。では完璧に掃除できる機能を作れるのかと言ったら相当難しいだろうと。僕たちのやるべきことは健康で長生きさせること。健康機能と掃除機能、どちらが大切かという話し合いをしていたのが、2018年2月頃のことです。

 

Open Chalenngeプロデューサーの岡島(左)と

 

岡島:今年の2月というと、Open Challenge 3に応募された頃ですね。

 

ハードウェア開発が佳境を迎えるころにOpen Challengeへの参加を決める

堀:ちょうどハードウェア設計を始めていたタイミングで、Open Challengeがあることを知りました。僕たちはものづくりの経験が浅いですし、開発や実験をする場所が欲しかったので、すぐに応募しました。

 

岡島:Open Challengeの審査で最初にプレゼンしていただいたとき、清掃機能をどうしようかと悩まれていましたね。

 

堀:メンターとして市村さん(注:プロメテウス代表取締役 市村慶信氏)が審査されていて、今でもはっきりと覚えているのは、市村さんに「僕はこのサービスを絶対に買う。でも、自動清掃機能だけは外してくれ」と言われたことです。市村さんはご自身がねこを飼われていて、その経験から「それはちゃんと清掃できないはずだ」と。

 

それを聞いたとき、正直カチンときました(笑)「こっちは一生懸命やっているのに何だよ」と思って(笑)社内でも清掃機能についてはさんざん議論していましたが、改めてガツンと言われるとね。

 

岡島:心の中では、清掃機能は無理だからやめよう、と思っていたとしても。

 

堀:真正面から言われると腹が立ちますね(笑)いちばん痛いところを突かれているから。

 

厳しい指摘も受け止めて前に進むことの大切さ

堀:でも一番大事だったのは、市村さんが「僕は絶対に買う」と言われたこと。この人は僕たちを応援してくれている、決して批判したくて言っているのではなく、ここまで本気になって言ってくれているのなら、こちらも考えようと思いました。その日、AKIBAから帰る途中の車から会社に電話して「今AKIBAで自動清掃いらないって言われたんだけど」と伝え、すぐにグループミーティングを開いて話し合い、清掃機能はやめることにしました。

 

清掃機能をやめたことで、その後の開発が急ピッチで進んだと語る堀氏

 

堀:あのとき市村さんに「やめろ」と言われなければ、この決断はもっと先になっていたかもしれません。これだけでも参加した価値はあったと思っています。

 

岡島:私たち運営としても、前向きなピボットに繋がる議論ができればといつも思っていますが、まさか初回当日にピボットするとは思っていませんでした(笑)でも、このスピード感こそがチームとしての強みなのではないでしょうか。

 

堀:うちはスピードしか勝てるものがありません。誰もやっていないことをやろうとするのだから、間違えるのは仕方がない。間違ったことにすぐに気が付いて、あるいは間違いだと気付かせてくれる人が周りにいて、ちゃんと決断できることが大切です。

 

最も大切な機能に絞って実用最小限の製品に

堀:そこでトイレの機能を健康チェックに絞ったところ開発が急ピッチで進むようになり、清掃機能がボトルネックになっていたのは明らかでした。MVP(Minimum Viable Product方式でいこうと、色もデザインも使い易さも、健康機能以外はすべて先送りにしました。

 

――DMM.make AKIBAのスペースはどのように使われていましたか?

 

廣山:実現したいのは、ねこのトイレで体重が測れる、尿量が測れる、画像認識ができることです。そのためのセンシング用の電子基板やネットワーク接続用のゲートウェイを筐体に組み込んで、試験をやっていました。部品をパーツ屋に買いに行き、AKIBAの10Fで半田付けして12Fで試験して、筐体にフィードバックして、を繰り返し、忙しいときは毎日のように来ていました。

AKIBAには基板を修正したり、配線なども作れる環境があるので、開発にはとても助かりました。

 

トレッタにはねこの体重、尿量、ねこを識別するためのカメラが組み込まれている

 

大切なのは周囲のペースに惑わされないこと

堀:これまで、他のアクセラレータープログラムに参加したことがありますが、あまりうまく行きませんでした。参加するだけで企業などに認めてもらえたような満足感がありましたが、お客様に喜ばせたいではなく、スポンサーやメンターを喜ばせたいというマインドになってしまって、いつの間にか意思決定を他人に委ねていました。

 

Open Challengeは、言葉は悪いですが、AKIBAをいかに使い倒すか、だと思っています。ものづくりやテストのためには僕らの好きなように使う。それができなければ辞めてもいいというスタンスで取り組んでいました。

 

AKIBAには、企業のアセットではなくファンクションを提供していただいたので、使うか使わないかを判断し易かったですし、今までのアクセラレータープログラムの中では、もっともスムーズにできたと思います。2018年2月にOpen Challengeをスタートしたときから7月のデモデイまでの間で、僕たちのプロダクトの状況は大きく変わりました。自動清掃もなくなりましたし、製品の値付けの考え方も当初とは全く違うものになりました。活動を通してAKIBAから受けた影響力はとても大きかったと思います。

 

――デモデイの手ごたえはいかがでしたか?

 

堀:いまトレッタの次のバージョンを作ろうとして資金調達をしています。今のバージョンは基板にRaspberry Piを使っていますが、コストが高く調達に時間もかかるので、大量生産のボトルネックになっています。また本体0円、月500円というビジネスモデルに変えたことで、生産計画もほぼ3倍に上方修正しています。これに向けた資金調達をしていますが、投資家さんからも興味をもっていただいて、とても良い感触が得られました。

 

スタートアップならではの強みを生かした戦略を

――大手メーカーが類似した製品を出す動きもあるようです。

 

堀:今は、モノからコトへの転換が言われています。モノがないと動けないのが大手メーカーだとすると、モノがなくても動けるのが僕たちの強みです。ティザーサイトなどを使って僕たちがやろうとしているコトを見せて、ユーザーさんに共感してもらったり、イベントにもどんどん出展してユーザーさんの声を聞いています。

 

スタートアップの強みを生かした方策を次々に打ち出している

 

堀:僕たちはプロモーションにほとんどお金をかけられません。そこで、一緒にTOLETTAを育ててくれる人を探すためににニャンバサダーという制度を作りました。トレッタを使ってもらい、共感していただければインフルエンサーとして発信してくださるという仕組みで、2018年4月ごろ募集しました。メディアに掲載していただいたこともあって、450人ほどの応募があり、飼いねこ1000頭くらいが集まりました。

 

その中から9人を選定しましたが、その人たちのSNSフォロワー数は17万人もいます。今この9人のニャンバサダーひとりひとりに、私たちが考えていることをしっかりと説明しています。大手メーカーのように大々的なプロモーションをかけなくても、こういう方々を通して強い影響力を発揮できると考えています。

 

――ハードウェアはほぼ量産開始だと思いますが、提供するサービスはどのような状況でしょうか。

 

堀:トレッタで集められるのは、家にいるねこの健康状態のデータです。そのねこたちが、結果としてどういう病気になったのかは、実際に治療した動物病院しかわかりません。そのため僕たちは、動物病院やペット保険の会社と連携しようとしています。彼らと提携することによって、原因と結果、つまり僕たちがもっているねこの健康状態のデータと、彼らが持っているねこの治療に関するデータをつなぐことができる。

 

動物病院やペット保険会社のデータと連携し、ねこの健康管理を革新するサービスを提供する

 

ねこの健康管理を見える化し、病気の予兆診断に

堀:ねこの泌尿器疾患では、今は24時間おしっこをしないと危険だと言われていますが、正確ではないかもしれません。もしかしたら、20時間かもしれないし18時間かもしれない。ねこの年齢によっても違うかもしれません。これまでは動物病院に来たあとのデータしかなくて、家にいる間のデータがありませんでした。今AIを使ってこのデータを可視化する仕組みを作ろうとしていますが、新たな発見があればねこの健康と長生きにもっと寄与できると考えています。

 

――デモデイでは海外展開も視野にいれているとプレゼンされていました。今後の予定をお聞かせください。

 

堀:2019年3月にトレッタの本格量産をスタートする予定です。今年はRaspberry Pi版を2000台売る予定で、2019年は量産版を5万台販売し、2020年にはアメリカで発売する計画です。

 

今後は海外展開も視野にグローバル事業化を目指す

堀:アメリカ市場でのノウハウがありませんので、海外経験のあるスタッフを集めています。現地の企業とも話をしていますが、トレッタの機能の有効性は確信していると言ってくれる一方で、アメリカのねこが日本のトイレに入るのか?という疑問を持たれています。日本のねこは普通に使っていますけど(笑)では現物で確認しようということで、日本のトイレを現地に送り、テストしてもらっています。

 

トレッタの生産計画は、日本が50万台、アメリカが100万台です。日本の製造拠点でアメリカ向けの台数は対応できないので、現地で製造拠点を探す必要があります。2018年4月にものづくりの世界大会「Hardware Cup 2018に出場するなどアメリカ進出への足がかりをつかみつつあります。

 

スピード感をもって先頭に立ち続けること

堀:ねこは世界中にいますし、泌尿器疾患も世界共通の課題です。他の会社にトレッタを模倣される前に、早く海外に持っていきたい。とにかくガンガン作りたい。このスピード感はとても大切で、データが集まれば集まるほど強くなるサービスなので、海外のコンペティターと戦うためには、もっともっとスピード感を持たないと勝てないと思っています。

 

僕が好きな言葉ですが、ピーター・ドラッカーは「変化はコントロールできない。できるのは、その先頭にたつことだけである。」と言っています。

僕は2003年に創業してからいろいろなことをやり、失敗もしてきました。外部の変化や技術の変化、世の中の変化、これは自分ではどうしようもないもので、それを嘆いていても仕方ありません。

 

それよりもどうやったら先頭に立ち続けていられるのか。立ち続けていれば、例え失敗したとしても意味があります。先頭に立つことをやめなければ、いつか勝つことができるかもしれません。これまで誰もやったことがないことに挑戦するので、失敗することもあります。でも失敗したら軌道修正して、また先頭に立ち続ければいい。今の僕たちは、準備を重ねて1発のホームランを狙うより、とにかく多く打席に立ってホームランを打つチャンスを増やしたい。いまはスピード最優先で、先頭に立ち続けようとしています。

 

(取材・文:後藤銀河)

 

 

DMM.make AKIBA 企業向けサービスについて

DMM.make AKIBAでは企業とスタートアップをマッチングするイベントや、IoT時代を切り拓く人材を育成する研修プログラムを提供しています。

施設の見学や説明会も随時実施しています。まずはウェブサイトからお問い合わせください。

 

DMM.make AKIBAのウェブサイトはこちら

サービスの一覧及び資料はこちら

お問い合わせはこちら

                    お問い合わせはこちら
FACTの最新記事をリアルタイムでお届けします