DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

40年ふろくを開発してきたマイスターが語る、量産で知っておくべき10のこと

2019年10月8日、DMM.make AKIBAで『メイカーとスタートアップのための量産入門』出版記念講演 ~「プロトタイプ」から「商品」にステップアップするために大事なこと~」が開催された。

「メイカーとスタートアップのための量産入門」著者の小美濃芳喜氏は大学で航空機を学んだ後、アメリカの企業で電子製品の開発に従事。帰国後は学研に入社し「科学」や「学習」、「大人の科学」といったシリーズの教材や付録の企開発に携わった。

書籍には小美濃氏の40年以上にわたる経験に裏打ちされた、製品の企画から量産に至るノウハウが詰め込まれている。

書籍と同時に発売された「ツインドリル ジェットモグラ号(以下、ジェットモグラ号)」は、本文の内容に即して設計・量産されたものだ。

発売前に増刷が決定するなど注目を集めていることもあり、イベント当日は量産に関心を持つ来場者が詰めかけた。本レポートでは、当日の講演のなかからハードウェアの量産に関して、特にビジネスパーソンが知っておくべき10のトピックを紹介する。

 

小美濃芳喜(おみのよしき)

1952年生まれ、東京出身。日本大学・木村秀政研究室手人力飛行機storkの設計・制作(世界記録更新)。1976年渡米、RCAにて電子工学の修行。1985年、学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。CCDカメラの開発に従事(スペースシャトルに採用)。1990年より、「科学」と「学習」や「大人の科学」シリーズの教材企画開発に携わる。2016年、企画室「オミノデザイン」を設立。技術顧問として活動。

 

『メイカーとスタートアップのための量産入門――200万円、1500個からはじめる少量生産のすべて』(オライリー・ジャパン、2019年8月8日)

CADや3Dプリンタなどのデジタル機器を使うことで企業並みのプロトタイプを作れるようになったメイカーやスタートアップ。だが、量産化・商品化となると資金面やノウハウを持たない人は多い。一般に公開されにくいプロトタイプ以降の手順に焦点を当て、小美濃氏の経験に基づくノウハウやジェットモグラ号の開発ストーリーが紹介されている。

 

商品企画はマーケットありき

講演の中で繰り返された製品開発のポイントは、
・商品
・価格
・スケジュール
・マーケット

の4点。ものとして面白いだけで顧客の手に届くことはない。ハンバーガーショップを例に出し「美味しくて安ければ売れる、というわけではない。お腹を空かせている人を集めて適切な時間に提供する必要がある」とスケジュールやマーケットの重要性を強調した。

小美濃氏が商品企画をする際、最初に考えるのはマーケットだという。ジェットモグラ号は2020年の教育指導要領の変化を見込んで発案されたため、低価格の教育用マイクロコントローラーmicro:bitによって制御される。小学生のプログラミング学習や教員向けの教材として、継続的に普及するマーケットが当初から想定されていたのだ。

 

OEM生産を活用する

100~1万個程度の生産数でセカンドロット(増産)の時期も分からないような規模では、中国の工場と直接コンタクトを取るのは難しい。スタートアップやメイカーが量産に取り組む場合、発注者の注文通りに生産から輸送まで担うOEM(Original Equipment Manufacturing/Manufacturer)会社を活用するのが基本だ。電子・機構・ソフトウェアなどの各種エンジニアを有しており、適切な図面とワーキングサンプルを渡せば作業を進めてくれる。かなりの数があるOEM会社から良い取引先を見つけるのは難しく、長い付き合いの中で判断するほかないという。もし条件の合わないOEM会社や工場だった場合、それまでの費用を払って別企業に変える判断も必要だ。

 

プロトタイプで主要部品を抑え、原価のアタリをつける

商品にかかるコストが分からない状態で企画が通ることはない。コストの多くを占める製造原価の中でも、キーとなる主要部品の価格はプロトタイプ段階で明らかにしておく必要がある。早い段階でOEM会社や工場に出入りするサプライヤーと交渉してアタリをつけ、後に大きな仕様変更などが起こらないようにすることが肝要だ。量産前の段階であれば、仕入れ条件に合わせた設計変更や、企画実施の可否判断もまだ間に合う。

ジェットモグラ号の場合、micro:bitのコネクタとモータードライバがキーパーツだった。小美濃氏は企画の初期段階で中国のサプライヤーにmicro:bitを送り「これが刺さるもの」を探すよう依頼した結果、色は限定されるが安く手に入る既製品が見つかったという。

 

デザインハウスのユニット製品を活用する

小美濃氏によれば、工員の平均月給は約7万円程度。20年前と比較しておよそ30倍以上になっているため、人件費のかかるライン生産は避けることが賢明だ。他方でモーターや電源などのユニット製品は、デザインハウスと呼ばれる企業が既製部品を集めて生産し低価格で提供しているケースが多い。わざわざラインを設けて人件費をかけるのではなく、デザインハウスが作る低価格の製品を活用し、それでも足りない部分だけを自力で解決すると良い。

 

「ブレイクダウン」と「時間切れ作戦」には要注意

OEMや工場とのやり取りにも、多くのノウハウや注意点がある。

取引先から発行された見積もりに納得がいかない場合、詳細原価表(ブレイクダウン)を要求できる。ただし、細かな部分の指摘やコストダウンを嫌ってか、開示を要求するたび合計金額が上がるケースも多いという。正直に事情を説明して見積全体に対して値下げ要求するのが好ましいが、追い込みすぎると険悪な雰囲気になってしまう。

出張先でOEMとやり取りする際、帰る飛行機の時間が迫ってから問題を提示されることがある。時間の都合で提案を飲まざるを得ない状況に追い込まれるが、クオリティや商品の志が落ちかねない。こうした「時間切れ作戦」を避けるため、飛行機で帰る日には打ち合わせをしないことが賢明だ。

 

販売価格は原価3倍の法則

販売価格を決める際にはある種の決まりごとがあり、およそ製造原価の3倍にしておけば、人件費も含めて最低限の収支が合うという。その価格で製品に価値が認められないのであれば、原価を落としたり付加価値をつけたりといった工夫が必要だ。

ジェットモグラ号はmicro:bitの入出力をプリント基板後方に引き出し、電子部品を乗せてアレンジできるようになっている。使うかどうかの判断は顧客に委ねられるが、ガジェットハック愛好家向けに付加価値を与えた一例と言えるだろう。

コストや販売価格を含めた最終的なジェットモグラ号の企画書(一部抜粋)は以下の通り。宅配便での送付を想定しているが、高さ3㎝以下の設計にすれば封筒が使えるため送料が大幅に削減できたという。

発売時期 2019年8月初旬
キャッチ 書籍『メイカーとスタートアップのための量産入門』連動企画
タイトル 「ツインドリル ジェットモグラ号」
企画者 小美濃芳喜ほか『メイカーとスタートアップのための量産入門』編集チーム
販売ルート 通信販売会社
価格 2,000円(税別)
購入対象者 『メイカーとスタートアップのための量産入門』の読者
類似商品 見た目が近い商品として、ドリル一つの「サンダーバードジェットモグラ」
企画背景 2020年度からの小学校でのプログラミング教育導入を背景に、コンピューターを使ったSTEM教育に関心が集まっている。
内容・特徴・構成 本体は、モーターが―内蔵された2つの大きなドリルを装備。制御基板にはmicro:bitを装着でき、そのプログラムに従い、様々な方向と速度変化が実現できる。
おおよその大きさ  宅配便既定の60サイズ以下を想定。重量は300g程度。

 

SNSで情報を届ける

企画書の提案以降はマーケティングや告知に力を入れる。新聞広告などは多額の費用が掛かってしまうが、宣伝に使うお金がないときにはSNSを活用すると良い。狭いマーケットであれば顧客同士がSNSで強いつながりを持つため、そのグループに情報が届くような戦略を取ろう。

 

設計のセオリーを抑え、耐久テストはぬかりなく

・配線は切れるもの。
・電池ボックスは熱くなるもの。
・部材は折れるもの。
・半田は取れる。
・接着は剥がれる。
・シールも剥がれる。
・取扱説明書は読まれない。
・折れた部品は断面積を倍にする。

量産設計において、品質や耐久性には上記のようなセオリーがある。経験を積み、これらを踏まえて作業すると商品の質は良くなっていく。

購入品の品質や耐久性はデータシートでおよその値が分かるが、自分で設計したものについては1万回から10万回の品質耐久テストにかける必要がある。製作中に壊れたものは顧客の手元でも必ず壊れるうえ、クレーム処理はコストも大きい。試験中に壊れたら「良かった!」と思い改善に取り組もう。

 

金型の修正は初期費用に含まれている

インジェクション部品の修正が必要な場合、Rをつけたり太くしたりなどの追加工を金型に対して行う。たいていの場合、3度目までの修正費用は金型代金に含まれている。図面通りに加工したら終わりではなく、数度の修正が前提になっているのだ。なお、一度完成したものとして検収を行うと、それ以降の修正には10-20万円の人件費が発生するという。

 

色見本に100円ショップを使う

色の希望は言葉やデータで伝達してもズレが生じてしまう。確実に色を伝えるためには色見本として実物を送るのが確実で、100円ショップのプラスチックパーツから選ぶのが手ごろだ。なお、ジェットモグラ号の青色は、もともと別メーカーの製品に用いられていた色だという。工場で過去に使っていた樹脂を利用すればそこからズレは生じないし、場合によっては値段が安くなることもある。

(取材・文:淺野義弘、撮影:淺野義弘、越智岳人)

 

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