DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

イギリス名門美大RCA発の知育玩具スタートアップStudio PLAYFOOLが拓く「遊び」の可能性

ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art、以下RCA)は、ロンドンに位置する世界最高峰の美術大学院大学です。

著名なOBには、サイクロン掃除機で知られるダイソンの創業者であるジェームズ・ダイソンや、名作SF映画「エイリアン」、「ブレードランナー」の監督であるリドリー・スコットらが挙げられます。

 

そんなRCAの卒業生2人によるクリエイティブユニット「Studio PLAYFOOL」は、現在DMM.make SCHOLARSHIP生として知育玩具の事業化を目指して活動しています。海外の美術系大学院を卒業し、すぐさまプロダクトの量産に取り組む姿はAKIBAでも珍しいケースと言えるでしょう。現在開発中の「Knotty」は、ピーバンドットコムが主催するコンテスト「GUGEN 2018」でも大賞に輝くなど、すでに注目を集めつつあります。

 

ダニエル・コッペン氏と丸山紗季氏による2人組は、なぜ知育玩具の開発に取り組んでいるのでしょうか。また、彼らを育んだRCAの教育とはいったいどんなものだったのでしょうか。

 

DMM.make AKIBAエヴァンジェリストで、彼らをメンターとしてサポートしている岡島が、二人のバックグラウンドについて伺いました。

 

――Studio PLAYFOOLの活動について教えてください。

 

Studio PLAYFOOLのダニエル・コッペン氏(右)と丸山紗季氏(左)

 

丸山:私たちはデザインとエンジニアリングを武器に、遊び心のあるプロダクトや体験を生み出すクリエイティブユニットです。なによりも「遊び」をコアにして、そこにテクノロジーや社会課題を結び付けてイノベーションを起こすことを目指しています。

 

私個人はもともと日本の法学部で学び、都市計画やスラムの問題に関心を持っていました。法律を学ぶ立場としてスラムに関わることに難しさを感じていたのですが、あるとき紙で街の模型を作ったら現地の人たちが急に議論に参加するようになって、かたちあるものが共通言語になることに気が付いたんです。

そこから多様なバックグラウンドを持つ人たちのコミュニケーションがいかに可能かということに関心が移り、文化や年齢・国籍・社会的地位を越えた共通言語をRCAで探求していった先で、「遊び」にたどり着きました。

 

コッペン:僕はRCAのすぐ隣にあるインペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London、以下ICL)で機械工学を学んでいたのですが、すこし退屈に感じていました。ある授業でデザインやイノベーションに関心を持つようになり、RCAとICLの合同プログラムであるGlobal Innovation Design(GID)に修士学生として進学することにしました。

 

その後、丸山が所属するInnovation Design Engineering(IDE)とGIDの作業スペースが重なっていたことがきっかけで意気投合し、Studio PLAYFOOLとしての活動をスタートさせました。

 

 

RCA在学中のコッペン氏と丸山氏

 

 

丸山:RCAの在学中に母校の慶應義塾大学に、私が講師として招かれる機会があり、私たちの学びを伝える手段として、コッペンと一緒にワークショップを実施することにしたんです。

思考のフレームワークをそのまま伝えても本質的ではないので、デザイナーがクリエイティブなことをしている時に起こっていることを体験してもらうために、“Playfulness(遊び心)”をテーマにしたツールキットを製作しました。

 

 

そこで実施したワークショップが好評だったので、その後も色々な場所で開催させてもらい、今は「PLAYFOOL Workshop」として、東京大学の安斎勇樹氏が代表を務めるコンサルティングファーム「ミミクリデザイン」とStudio PLAYFOOLの共同プログラムとして提供しています。

 

その後、私たちはこのPlayfulnessという考え方をワークショップ以外にも応用し、食糧危機や人工知能といった領域にもつなげ、さまざまな作品制作を行っています。

 

少ない量でも満腹感を得られるための食器「HALF/FULL」(左)と、機械学習によって明るさと暗さを記憶する照明「Lulu」(右)。いずれもStudio PLAYFOOLの製作物。(写真提供:Studio PLAYFOOL)

 

 

――お二人から見たRCAはどんな学校ですか?

 

 

丸山:RCAの中でSchool of ArtとSchool of Designは別の校舎に分かれていますが、パフォーマンスアートとして裸で校舎に寝転がっている人がいれば、どういう課題を解決したいかロジカルに考えてプロダクトを作る人もいます。学科を跨いで作品制作するAcross RCAというカリキュラムでは、Art側の人の自由なスタイルに感銘を受けましたね。

 

コッペン:デザインとアートが明確に分かれているわけではなくて、その間にグラデーションがあるんです。テキスタイルやアニメーションなど、色々な分野がデザインとアートの中間に位置しています。

GIDもデザインエンジニアリングをテーマに掲げていますが、僕が大学時代に学んでいたような機械工学の知識を応用するだけ、というスタイルではありません。多様なバックグラウンドを持つ学生たちと共に、広い領域のテーマに取り組んでいました。

 

IDEの具体的なカリキュラムは、丸山氏のブログ記事に詳しい。年齢も専門も異なる学生たちが、共通でものづくりのスキルを学ぶためのブートキャンプのようなコースが設置されている。

 

 

――デザインファームやモビリティ業界など、卒業生は幅広い分野で活躍していますが、彼らに共通する特徴はあるのでしょうか。

 

コッペン:RCAで学ぶのは、「失敗を恐れない」「とにかく実験しよう」といった精神的な要素。やったことがなくてもどんどん挑戦し続けるというマインドセットは、卒業した後にも引き継がれているように感じます。

 

丸山:私のクラスメイトにも、元々デザイナーだったのに今はエンジニアとして雇われている人がいます。何を言われているか分からないながらも必死に勉強して貢献しようとしているようで、彼女のように色々と実験しながら活動している人が多いと思います。

 

 

 

――いま事業化を目指しているプロダクト「Knotty」について教えてください。

 

丸山:Knottyは3歳以上を対象としたフィジカルなプログラミング玩具です。インプットとアウトプットのブロックをひもで結ぶことで、それぞれを対応させて操作することができます。ディスプレイもないシンプルでアナログな作りなので、ここから先の工作に繋がりやすいのが特徴です。

 

コッペン:これまで僕たちが取り組んできたプロジェクトは、大人が対象になっていました。せっかくPlayfulnessをテーマにしているのだから、その象徴である子供にむけた玩具を作りたいと思ったのが開発のきっかけです。

 

丸山:他のプログラミング玩具について調べてみると、テクノロジーが子供のイマジネーションを抑制しているものが多いように感じました。問題を解かせるためのツールになっていたり、明確なゴールが設定してあったりする。Knottyが他の玩具と異なるのは、小さくて、シンプルで、オープンエンドな遊びを提供している点です。

子供は自由な遊びを通じて、「これはどうなっているんだろう?」「こうしたらどうなるんだろう?」と自分で問いを立て、発見を繰り返しながら好奇心を育んでいきます。子供がこれまで見聞きしたものを連想しやすく、両親とのコミュニケーションにも繋がりやすいことから、ひもを結ぶというクラフトの要素を取り入れました。

 

 

――現在の開発状況はいかがでしょうか?

 

 

コッペン:9月くらいから日本に来て、事業化を目指して色々な方に相談していますが、まだ具体的に何かが始まったわけではありません。活動資金をはじめ、量産に移すためには何もかも足りていないですね。IDEやGIDでも一通りの開発技術は学びますが、量産設計やプロダクトデザインを進めるためにはプロフェッショナルな方々との協働が必要です。

 

丸山:DMM.make AKIBAは今のところ主にオフィススペースとして利用しています。Knottyの開発が進んだら、もっとStudioも利用してみたいですね。また、スタッフの方にはビジネス面を中心としてメンターのように関わってもらい、心のよりどころになっています。

 

 

――「Knotty」はRCA在学中から続くプロジェクトですが、事業化のノウハウは授業で教わるのでしょうか?

 

丸山:いいえ、卒業して事業を起こして学べ!というスタイルです。

卒業した後の学びは在学中と全く違うので、先生たちはよく「RCAは終わっていない」と言うんです。修士の2年間を卒業した後にも学びは続くので、私たちも今はRCA3年生としてKnottyの事業化に取り組んでいるような心構えです。

在学中に得た「失敗を恐れない」という精神はしっかり残っていて、この前ある会社に連絡するとき、お客様窓口から連絡したんですよ。なかなかビジネスの話をお客様窓口から問い合わせるケースはないと思うんですけど、ちゃんと返事をいただけました。RCAで学ぶのは、こういう図太さです(笑)。

 

 

聞き手:岡島康憲 取材・文:淺野義弘

岡島康憲
DMM.make AKIBAの企画・運営及びエヴァンジェリストを担当。 電気通信大学大学院修了後、ビッグローブ株式会社にて企画運営を担当。 2011年、岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発やハードウェア商品の企画支援を行う。 2014年よりDMM.make AKIBAにジョイン。 2017年、IoTセンサー向けプラットフォームを提供するファストセンシング株式会社を創業。
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