DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

大手電機メーカーがスタートアップに教える「モノづくり」――シャープが取り組むスタートアップとのオープンイノベーションとは

かつて社会学者が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼んだ高度成長期を支えてきた日本の製造業。このところ新興国に押され気味で精彩を欠いているところもあるが、数十年にわたって世界をリードしてきたモノづくりの技術力は色褪せていない。

今回はDMM.make AKIBAのスポンサー会員であり、スタートアップ向けのモノづくりサポートプログラム「IoTブートキャンプ」を展開するシャープ株式会社に、大手製造業としてのノウハウを生かしたオープンイノベーションへの取り組みについて、お話をきかせていただいた。

 

シャープ株式会社 研究開発事業本部オープンイノベーションセンター所長 金丸和生氏

 

――DMM.make AKIBAのスポンサー企業になったきっかけについて教えてください。

 

2016年の夏、シャープは台湾の鴻海精密工業(以下、ホンハイ)およびそのグループ会社と資本業務提携契約を結びました。ホンハイはご存じのとおり、世界最大手のEMS企業でスタートアップとの付き合いも多いのですが、シャープとしてのスタートアップとの取り組みはまだまだ手薄でした。

 

それまでも産学連携や同業他社とのオープンイノベーションは積極的に取り組んでいましたが、スタートアップはどのように連携すればよいのか、わかりませんでした。

やるのであれば、シャープらしい取り組みを模索したいと思い、DMM.make AKIBAを訪問させていただいたのがきっかけです。AKIBAのスペースは、いろいろな人との出会いがあり、打ち合わせも頻繁にできるので助かっています。

 

スタートアップとフラットな関係を築く

――シャープらしい取り組みとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

スタートアップ向けに拠点を作ったり、ピッチコンテストを開催したり、ということもできますが、目的がシャープの事業になってしまいます。そうではなく、スタートアップとニュートラルに連携することを目指しました。

 

スタートアップが自然に集まるようなスキームを作ろうと考えたのですが、そのために必要なシャープの魅力は何だろうと。そこはやはり、製造業としてのシャープのアセット、モノづくりの技術やノウハウではないか、ということで、モノづくりブートキャンプを考え出しました。

 

 

AKIBAに参加してスタートアップやVCの方のお話を伺うと、近年IoT系スタートアップが増えてくる中で、製品の品質問題や製造工場をどう選べば良いのか、工場とはどのように付き合えばよいのかなど、モノづくりが分からないため苦労しているケースがあることがわかりました。

 

製造業として培ってきたQCDのノウハウ

私たちは、毎年多くの製品を設計開発し、品質を確保しながら量産して発売しています。QCD(Quality、Cost、Delivery:品質、コスト、納期)を守って発売するノウハウがあります。これにはとても価値があるものですから、これまで大手電機メーカーがその経験やノウハウを開示することはありませんでした。小笠原さん(ABBALab代表取締役の小笠原治氏)にも、シャープが開示してくれるのであれば、スタートアップにとって大変魅力的なのでぜひ検討して欲しい、と言われました。

 

それをきっかけに、テキストを作って講師などを集め、2016年7月にトライアル版のプログラムを開催したところ、大変好評でした。

参加したスタートアップから、100年以上の歴史があるシャープという会社のモノづくりの全体像が俯瞰できる、スタートアップがモノづくりを進める上で、参考になる考え方や気付きが多いという声をいただき、その後準備を進めて16年11月に第1回モノづくりブートキャンプを開催しました。スタートアップにはシャープの天理事業所まで来ていただいて、10日間、朝8時40分から始めて夜の9時まで議論が続くこともあります。かなりキツいプログラムですが、脱落する人は脱落してもいい位の気構えで始めました。

 

ブートキャンプのプログラム例。10日間連続でスケジュールがびっしり埋まっている

 

モノづくりの共通言語、品質や信頼性の考え方を教える

――スタートアップからは、具体的にどのような点が好評だったのでしょうか?

私たちが持つモノづくりプロセスはシャープ独自のものではなく、大手製造業や工場で通用するような共通言語を使っています。シャープのプロセスを学ぶことで、シャープ以外の工場とでも話ができるようになり、手戻りなく商品がだせるようになるという点が好評でした。

 

次に品質や信頼性です。シャープは100年以上にわたり、エンドユーザーに多くの製品を提供してきました。こうしたエンドユーザーに対しての品質や信頼性の考え方は、ビジネスをしているメーカーだけが持っているものです。シャープもスタートアップも社会的な責任、ユーザーに対する責任は同じですから、QCDやブランドをしっかりと守らなければなりません。

 

――シャープのノウハウを出すとのことですが、スタートアップが大手製造業と同じレベルでやるのはハードルが高くありませんか?

 

例えば品質基準でも、シャープの基準をそのまま押し付けるわけではありません。私たちの持っている技術やノウハウを最大限に使って、スタートアップのビジネスにあった基準を一緒に考えています。コストや信頼性、品質、ブランドなど最大限守るのですが、スタートアップの希望を聞いて、狙っているコストや品質を実現するために、私たちの信頼性基準をどこまで守ればよいのかを一緒に考えています。

 

狙いはスタートアップの熱量を社内に取り込むこと

――モノづくりブートキャンプは、スタートアップにとって魅力的なプログラムですが、シャープとしてのメリットは何でしょうか?実施にあたって社内をどう説得されたのでしょうか。

 

最初は、スタートアップの熱量を社内に取り入れようということにフォーカスして企画し、トップに承認をもらい、トップダウンで進めさせてもらいました。タイミングも社内の風土改革に取り組んでいる時でしたので、「変わらなければならない」という意識がある中で、この活動が具体的なトリガーのひとつとして支持されたのだと思います。会社の転換期だからこそ出来た新しい取組みだったかもしれません。

 

――スタートアップの熱量を取り込むということですが、具体的にはどのような形で進められたのでしょうか?

 

まずは、社内講師を通して伝播させることです。社内の技術者たちに忙しいなか参加してもらっているので難しさはあると思いますが、講師もブートキャンプを楽しみにしています。普通の社内研修と違い、参加者がとても熱心でディスカッションが活発です。

講義が終わったあとに講師が1時間くらい質問攻めになる。もう勘弁してよと言うくらい(笑)。でもこれがスタートアップの熱量です。

講師が自分の職場に戻った後、周りのメンバーが意気消沈しているような状況があっても、元気出せよと声がかけられる。そうした単純なところから、社内に熱量が伝わっていくと考えています。

 

モノづくりブートキャンプの様子。 写真提供:シャープ

 

また、ブートキャンプの開催期間中に、社内から参加者を募って懇親会を開いています。そこでブートキャンプの参加者にピッチをやっていただき、私たちも新商品を紹介するなどしています。この交流会に参加した人たちから、新しい取り組みをやりたいが参考になるスタートアップの情報はないかなど、問い合わせを受けることが増えてきていて、会社としてスタートアップに対する期待が高まっていると感じています。

 

スタートアップへの量産支援プログラムを追加

スタートアップがブートキャンプを卒業した後、自分たちでモノづくりをする中で、シャープに力を借りたいという場面が出てきます。具体的に量産支援をしてほしいという話が出てきたため、16年12月に量産アクセラレーションプログラムを追加して2部構成とし、IoT.make Bootcampという名称にしました。次世代型Connected Lock「TiNK」を開発する株式会社tsumugが第1号でした。

 

 

この量産アクセラレーションプログラムは、スタートアップとディスカッションして支援内容を自由に決められるようにしています。例えば顧問的な立場で見てほしいとか、中国の工場に一緒に監査に行ってほしいとか、コストの評価を一緒にしてほしいなど、ニーズに合わせて自由なプログラムを作っています。

 

有料とすることでスタートアップと対等なパートナーになる

大切なことですが、モノづくりブートキャンプも量産アクセラレーションプログラムも、スタートアップから費用を頂いています。これには2つの意味合いがあって、まず会社の経営状況に左右されず、スタートアップとの取り組みを末永く続けていくため、自分たちで必要最低限の費用を確保したいということ。もうひとつは、お金を頂くことでお互いが対等なパートナーとして付き合えるということです。また、量産アクセラレーションプログラムの中で、シャープと一緒にスタートアップのモノづくりをしてくれる工場や設計会社などを集めた量産支援ネットワークを作っていますが、シャープ本体だけでなく、そのネットワーク企業も全員がパートナーで、レベニューをシェアするようなスキームを構築したいと考えています。

 

スタートアップからの熱量は大企業にとってもインパクトが大きいと語る金丸氏

 

大企業ではとてもできないビジネスモデルやエコシステムを作ろうというスタートアップの熱量には、大いに期待しています。自分たちで尖った製品を作りたい、でもモノではなくサービスで儲けたいというケースは多いですから、自分たちがやらなくてもいいところは、シャープに任せてもらえばいい。工場や生産など、これまで私たちがやってきたことと同じ苦労をスタートアップが背負う必要はないのではと考え始めています。スタートアップのモノづくりの考え方や仕組みを作っていければ良いかもしれません。

 

まずはやってみることの大切さ

――会社としてスタートアップとの取り組みをどこまで大きくしていくのか、目標値のようなものはありますか?

マイルストーンを置いて目標を決めるというのは、シャープという会社が考えることができる範疇でのことになります。ですが、私たちの活動は、これまででは考えられないような結果を生む連携を求めていますから、敢えて熱量を入れると強調しています。

 

スタートアップとの繋がりを広げ、量産アクセラレーションプログラムで育てる、そこにシナジーがあればもちろん連携する、というのは目標ですが、シャープの事業の中でだけ考えるような枠には、縛られないようにしています。もちろん会社としてできないこともあるでしょうが、まずはやってみる。世の中はどんどん変わっていますから、とにかく前に向かって進むことを大切にしています。

 

モノづくりブートキャンプも量産アクセラレーションプログラムもどんどん進化しています。スタートアップを育てるシャープ独自のプラットフォームを作り、バリューを高め、世の中に広く認知してもらい、もっと期待していただけるよう最大限注力しています。

 

参加者のニーズに合わせたプログラムを開発していく

――最後に今後の取り組みについて、お聞かせください。

 

これまでのモノづくりブートキャンプは、10日間のプログラムでした。ただ参加者のステージによって、例えば量産直前のスタートアップや、一度量産開始したが再度やり直したいという場合と、まだ資金集めを始めたばかりのスタートアップでは、プログラムの過不足が違います。

 

多忙なスタートアップでも参加しやすいようにプログラムの改訂

 

2018年9月から2つのラインを用意し、ひとつは月曜から土曜の6日間でやるもの。これまでのプログラムと基本的なところは同じで、プロトタイプを作り終えて事業化を考え始めるステージに対応します。もうひとつは、これを4日間延長して10日間とし、モノづくりに関する演習を充実させます。この期間で量産についてのメンタリングも含めることで、これを卒業すれば資金調達プランでも事業プランでもすぐに書けるようになります。

 

こうした新しい形を進めていく中で、tsumugのようなプロジェクトがまた生まれるでしょうし、テキオンラボのような社内ベンチャーも始まることを期待しています。

(取材・文:後藤銀河)

 

シャープ株式会社

シャープの事業は、「スマートホーム」、「スマートビジネスソリューション」、「IoTエレクトロデバイス」、「アドバンスディスプレイシステム」の4つの事業ドメインから成り立っています。

世の中にない特長商品・デバイスを創出し、お客さまに感動を与え、新たな市場を創造すべく積極的な事業活動を展開しています。

シャープはDMM.make AKIBAをサポートしていきます。

 

DMM.make AKIBAのスポンサー会員について

DMM.make AKIBAでは、我々のミッション・ビジョンにご共感をいただき、一緒に新しいモノづくりの未来を担っていただけるスポンサー様を募集しております。

モノづくりに関係する「人」・「情報」・「ツール」が集まる施設の特徴を生かした、ハードウェアスタートアップを中心とするコミュニティや、さまざまな工作機械及びコワーキングスペースを御社のビジネスにご活用いただけます。

また、施設内の媒体を中心に、貴社・商品をPRしていただけるほか、ステータスに応じて様々な特典をご用意しております。

施設見学も随時可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

 

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