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地銀としてスタートアップを支援したい――地銀とスタートアップが繋がるには

常陽銀行地域協創部イノベーションサポートチームチーフ 中川磨氏

 

テック系スタートアップにとって、アーリーフェーズではまだまだ事業リスクが高く、資金を得る手段も限られているだろう。だがビジネスプランも固まり、事業展開を本格的に始めようとすると、どのように資金調達をするのかが重要な課題になってくる。

スタートアップや大学発ベンチャーが盛んになってきている昨今、ともすれば保守的なイメージの強い地方銀行にあって、スタートアップ支援を前面に打ち出している人がいる。今回は、茨城県の地方銀行である常陽銀行地域協創部イノベーションサポートチームチーフの中川磨(なかがわ おさむ)さんに、お話を伺った。

 

 

岡島:中川さんは、常陽銀行から筑波大学に出向され、筑波大学産学連携部産学連携企画課技術移転マネージャーという立場でもあります。二足のわらじを履かれるようになったきっかけから教えてください。

 

中川:常陽銀行から筑波大学に出向したのは今から3年前のことで、筑波大から要請される形でした。当時筑波大が地元の企業との関係性を作るという狙いで常陽銀行にアプローチがありました。最初のきっかけは、地元企業と筑波大の接点、中小企業と大学の先生の共同研究や自治体とのコラボレーションを期待されたことでした。

 

中川氏(左)とDMM.make AKIBAエヴァンジェリストの岡島(右)筑波大学では、産学連携部産学連携企画課技術移転マネージャーとしてアントレプレナー関連の教育プログラム開発を手掛けている

 

ベンチャー支援経験を生かし、筑波大でアントレプレナー向けプログラムを開発

中川:私は平成15年にジャフコに出向したこともあり、アーリー以降のベンチャーやテック系企業の支援についても経験していました。筑波大ではそれを生かしてアントレプレナー関連の教育プログラムを作り始めました。そうした中、筑波大の中からシェアトレの木村君(シェアトレ代表取締役木村友輔氏)や、ワープスペースの亀田先生(ワープスペースCEO 亀田敏弘氏)といった方々が注目を集め始め、それで銀行に「大学発ベンチャーがまだまだ出そうだから出向期間を延長させてほしい」と話をしました。

 

そして、筑波大学がEDGE-NEXT(文部科学省の次世代アントレプレナー育成事業)に選定されたこともあり、そのプログラム開発などを大学側に乞われる形で進め、今のように銀行と大学、両方の立場でやるようになりました。

 

岡島:常陽銀行では、イノベーションサポートチームを創設されたと伺っています。スタートアップを支援する仕組みを作ろうと思ったのにはどのような背景があったのでしょうか?

 

スタートアップへの法人融資がなぜ難しいのか

中川:まず銀行の立場からいうと、大学発ベンチャーでもスタートアップでも、いわゆるテック系の会社にお金を貸すのは大変難しいことなのです。なぜかというと、一般の銀行員からみたらスタートアップが何をやっているのか、わからない。極端な話ですが、「ラズパイ」という言葉が出た時点で、もうダメです(笑)

特にアーリーステージにいると事業リスクも非常に高いですし、さらに最先端のことをやっていますから、銀行員には何がバリューなのかもわかりません。

 

長期化する低金利の中で、地元を離れられない地銀が収益を確保するのは難しくなっているという

 

中川:その一方で、銀行の本業ともいえる法人融資がどういう状況なのかというと、ゼロ金利政策のために、驚くほど金利が薄くなっています。
日銀に預けるよりはと、企業にマイナス金利で貸している例さえあります。こんな低金利では、どれほどボリュームを出しても多くは稼げません。これはどこの地銀も同じ状況で、法人融資からの収益低下をどう補うのかという課題を解決しなければなりません。

 

岡島:ある程度高い金利を取れる融資先を探す必要がある、ということでしょうか?

 

新たな視点に基づく融資先の開拓

中川:はい、私が個人的に良い仕組みだと感じているものだと2つあって、ひとつはプロジェクトファイナンス、もうひとつが今日のお話に関連するベンチャーファイナンスです。まず、プロジェクトファイナンスはどのようなものかというと、法人に対する融資ではなくて、例えば太陽光発電とか大型船の建造とか、何十億円という規模のプロジェクトに対して融資するものです。

 

岡島:プロジェクトを進めているのは事業会社だと思いますが、法人融資とは違うのでしょうか?

 

中川:法人融資のように「企業の信用」で貸しているのではなく、純粋にプロジェクトが生み出すキャッシュフローで返済を受けるというものです。法人は例えば代表者が亡くなった場合でも法人は残りますが、プロジェクトファイナンスでは、プロジェクトが無くなってしまえばお金は返ってきません。通常の法人融資よりもリスクが高いわけですから、それだけ金利が高い状態にあります。法人融資の10倍100倍という金利が同じロットで取れるわけですから、徐々に他の地銀も参入してきて、国際的にも注目を集めている分野になっています。

 

ベンチャーは銀行にとって新たなマーケット

中川:ベンチャーファイナンスも、このプロジェクトファイナンスと考え方は似ています。何の実績もないスタートアップの信用なんて無いに等しいですから、通常の法人融資では貸せません。では、アーリーステージのスタートアップの何を基にして貸すのかというと、その事業がうまく行きそうかどうか、銀行が取れるリスクが見極められるか、というところにあります。彼らのやっていることをよく知り、中身を見ていけば、ある程度の金利で融資できます。個人的には、このベンチャーファイナンスはプロジェクトファイナンスに次ぐ柱、新規マーケットになり得ると思っています。

 

岡島:実績のない法人でも、リスクによっては融資できるということですか?

 

リスクを見極めてどうのようにヘッジするかを考えれば融資はできると語る中川氏

 

中川:プロジェクトファイナンスを例にとって説明すると、リスクを見定めてお金を貸すというのは、色々な担保を取ってそれでカバーするということなのです。担保と言っても一般的な土地や建物といった固定資産ではなく、メガソーラーであれば発電システムそのものや売電の権利、土地の地上権など、プロジェクトにまつわる有形無形の資産を洗い出して担保をとります。万一プロジェクトのオーナーがいなくなってしまったとしても、こちらで事業を引き受けてやってしまおうという考え方です。

 

これをベンチャーファイナンスに適用すると、彼らの中にリスクをカバーできるものは何だろうという目線で見るということになります。例えば彼らがどこから仕入れて誰に売っているのか、そこに発生する権利って何があるのか、という商流を見極めてリスクヘッジするのです。

 

岡島:ある程度ビジネスモデルが出来ていて、売り先が見えている必要があるということでしょうか?

 

デットとエクイティの違い

中川:基本的にそうです。ある程度の事業規模にならないとデット(debt:負債、金融機関などから借りる資金)を必要とするような場面がありません。スタートアップでもエクイティ(equity:株主資本、株式発行による資金調達)のようなリスクマネーを必要とする場面はあると思いますが、デットを必要とする場面はもう少し後のステージかと思います。

 

エクイティの場合、期待収益率は20~30%が最低線になりますから、その分だけリスクが取れます。一方でデッドの場合、融資の金利が期待利益率になりますので、多くても1~3%程度のリスクしか取れません。このレベルのリスクに抑え込んでいくという作業をすれば、例えテック系アーリーステージの企業でもファイナンスできると考えています。

 

岡島:具体的な事例として、どのようなことをされているのでしょうか?

 

ベンチャーに必要なリスクヘッジとは

中川:先日手掛けた事例だと、ロボットを製造しているベンチャーがあります。これまでサンプル品を細々と作っていて、いくつかの会社で試してもらっていたところ反応が良く、何十台かまとめて買いたいという話が出ました。これに対応するため、急きょ何十台何百台という在庫を持ちたいという話になったのですが、これまで販売したという実績はありません。1台200万円が100台、2億円分の在庫を持ちたいと言われても、販売実績がなければ通常の法人融資はできません。

 

ベンチャーのビジネスプランをちゃんと理解し、マイルストンを設定して検証することが大切だという

 

そこで、マイルストンを設定してやってみることにしました。まず、半分の50台分の在庫が持てるだけのお金を貸して、本当に想定通りのスピードで売れていくのか見てみようと。彼らにとっても在庫を持ちすぎてデッドストックになるのは避けたいですから、まず半年間は狙った在庫量になっているのかウォッチしてみようということになりました。上手くいたら残りの50台もやりましょうというように、マイルストンを設定して融資額をコントロールしました。

 

実は、今までこういう貸し方をしたことはありませんでした。マイルストンを設定して、在庫を指標にして、在庫増えそうだったら一回止めて、売れないのには理由があるだろうからそれを考えてからやろうと。今回はこれがうまく行って、そのベンチャーは大きく売り上げを伸ばしました。

 

岡島:事業計画書だけを見て融資するよりも手がかかりそうですね。

 

借りやすいことが必ずしもメリットではないことも

中川:制度融資といって、信用保証協会が融資の保証人になることで銀行がリスクを取らない仕組みがあります。本来ならば相手のキャッシュフローを詳しく調べてお金を貸すべきなのですが、リスクを取らなくても良いので、銀行員が手間をかけていない。事業計画書の数字だけを見ても、相手の会社のことなんて本当はわかりません。その事業の裏付けになっているニーズのメカニズムがどうなっているのかというところまでは評価できていません。

 

制度融資であれば銀行には痛手はありませんが、ベンチャー側にとっては本来不要な借金なのかもしれません。私の考え方の根底には、スタートアップにはデットは必要な分だけを借りて、頑張ってちゃんと大きくなって欲しいという想いがあります。

 

相手のことを理解したうえで融資すべきという想い

中川:ただ、これをやるには大変な手間と時間がかかります(笑)社長さんとしっかり話をして、ご自分のボトルネックがキャッシュフローだということを認識してもらう必要があるからです。でもそういった話は、お互い腹を割って話せる関係にならないとなかなか出てきませんから。

 

信頼関係を築いたうえで融資をすることが双方にとってのメリットになる

 

中川:スタートアップの計画を精査すると、突っ込みどころがたくさん見つかります。リスクを抑止するという意味で、デットならではの良さがあるとも言えます。借金抱えるのもプレッシャーですから、それに耐える事業を構築するように考えられるのがメリット。それが銀行側から提供できるサポートだと思います。必要なキャッシュフローを見極めて、お互い納得の上で貸せるような形をいま模索しています。

 

岡島:ベンチャーファイナンスという仕組みのPoC(Proof of Concept:概念実証)をやっているみたいですね(笑)

 

中川:その通りです(笑)このパターンがうまく行くのかというのをみて、次はそれをローコストで水平展開する方法を考えなければなりません。今はいろいろなファイナンスの方法が出てきているので、例えばコンバーチブルボンド(CB:転換社債)など、いろいろな方法を駆使して銀行側からリスクヘッジする手を考えたいと思っています。

 

スタートアップの成長を見据えた支援を

中川:いま、私がいる筑波のあたりでは、テック系の企業が良くなっています。産総研発ベンチャーやNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)系ベンチャーなど、素材系のベンチャーにも引き合いが増え、売り上げが増えてきています。今後はオープンイノベーションがトレンドになりつつあるので、IPOよりもM&Aを選択する企業が増えると見ています。

 

地銀としてはM&Aに関われれば、大きな収益が得られます。私がお話をしているベンチャーをバイアウトした事例はまだありませんが、それにつながる最初の一歩としてお付き合いできればと思っています。私が手掛けるベンチャーファイナンスは、スタートアップが成長し、将来メガベンチャーとなってIPOやM&Aするときのための準備のひとつと考えています。

 

 

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岡島康憲
DMM.make AKIBAの企画・運営及びエヴァンジェリストを担当。 電気通信大学大学院修了後、ビッグローブ株式会社にて企画運営を担当。 2011年、岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発やハードウェア商品の企画支援を行う。 2014年よりDMM.make AKIBAにジョイン。 2017年、IoTセンサー向けプラットフォームを提供するファストセンシング株式会社を創業。
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