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ここがちがうよ、大学発ベンチャーと大企業――大学発ベンチャーを取り巻く厳しい環境とは

筑波大学産学連携准教授 尾﨑典明氏

 

企業が新規事業開拓や自社が抱える課題のブレークスルーを模索する際、産学連携に活路を見出すケースも多いだろう。
以前から企業と大学の共同研究は盛んに行われていたが、近年大学の研究室がその研究成果を生かして大学発ベンチャーとして起業する動きが盛んになっている。こうした大学発ベンチャーとの共同開発や業務提携を考えるにあたり、企業側が知っておくべき大学や大学発ベンチャーの実情について、筑波大学産学連携准教授の尾﨑典明氏にお話を伺った。

 

尾﨑典明氏プロフィール
1978年生まれ。九州工業大学大学院工学研究科修了後、コンサルティング会社にて新商品・新事業開発に従事。2009年にエスファクトリーを創業し、中小企業やスタートアップの支援や、地域活性化のプロジェクトに取り組む傍ら、TXアントレプレナーパートナーズ理事やNEDO技術委員、JAXAアドバイザーなどを歴任。

 

年々厳しくなる資金確保――大学の研究室を取り巻く環境

尾﨑:大学発ベンチャーに触れる前に、まず日本の大学内研究室が置かれている現状を説明する必要があると思います。
以前は大学に対する国からの運営費交付金で研究室を一定程度は維持することができたのですが、大学を取り巻く状況は年々厳しくなっています。交付金も削減され、研究室活動や運営のための財源を自主的に確保することが求められるようになり、大学の研究室にとって、どのように競争的資金を獲得するのかが重要な課題になっています。

 

岡島:日本の大学の予算規模はどれくらいなのでしょうか?海外の大学、例えばスタンフォード大やマサチューセッツ工科大など、潤沢な予算で研究開発を進めて大きなアウトプットを出しているというイメージがあります。海外と国内の大学で、状況は違うのでしょうか?

 

海外より厳しい状況にある日本の大学

尾﨑:大学や研究機関の資金には大きな差があります。例えばハーバード大の経常収益は5400億円ほど、寄付金基金など3兆円を超える規模です。
一方で国内の大学はというと東京大学の経常収益が2270億円ほど、旧帝大クラスで1000億円というレベルです。地方国立大では中堅企業くらいの資金規模のイメージです。

 

出展:Harvard University Financial Report Fiscal Year 2017

 

尾﨑:これが研究室レベルでどれくらい厳しいことなのかというと、例えばニュースにもなっていますがあの山中先生(注:ips細胞を開発した山中伸弥京大教授)でも、ご自身の趣味でもあるマラソンを通じて寄付を呼び掛けていたりしています。(注:ファンドレイジングサイトJAPANGIVING主催の大阪マラソンのこと)

世界的なトッププレーヤーでも十分な資金調達が難しいのに、例えば地方の国立大学の教授や、中堅・若手層にはさらに予算が付かなくなっていて、競争的資金も獲得できない。
こうした状況にある日本の大学にとって、知的財産のライセンス使用許諾や企業との共同研究で外部資金を集め収入を増やすことや、大学発ベンチャーを生み出すことは一つの命題なんですね。
また、国としても新しいベンチャーを少しでも多く育てて、国際競争力の担い手、雇用拡大のゆりかごになってもらいたいという思惑もあります。

 

岡島:外部資金というのは大学と先生にどのように配分されるのでしょうか?

 

尾﨑:大学により定めがありますが、例えば企業との共同研究費だと一般的に間接経費として10~30%程度が大学に入ります。
特許のライセンスは大学にもよりますが発明者と折半など。使途として間接経費に充てられないグラントなどもありますが、私の知る範囲、大学への寄付というのが一番先生にお金が入る仕組みになっていて、0%~10%くらいが大学に入って残りが先生というのが一般的かと思います。

 

ベンチャーや企業への知財ライセンスは重要な収入源

岡島:大学は、先生が運営する研究室から生み出される特許を受ける権利を取得していると理解しています。大学と大学発ベンチャー、企業との知的財産についてのやり取りはどのようになっているのでしょう?

 

尾﨑:大学発ベンチャーも企業も、大学が所有する特許の使用許諾を受けてライセンス料を収めることになります。ものにもよりますが、ランニングで1%~5%程度。大学発ベンチャーについては大学の先生が経営者になっている場合や共同出願の場合など、持ち分や寄与率、細かなところまで利益相反の視点や兼業規定などに照らし、大学の倫理規定委員会などで判断しながらすすめていきます。

 

尾﨑:研究の資金となる収入は、おおむね科研費、JSTやNEDO等のグラント、企業との共同研究費、特許のライセンスフィー、あとは研究に対する寄付ですね。昨年、文科省の通知により国立大学もリソースや知的財産使用の対価として大学発ベンチャーからのストックオプションの取得が緩和され、こういった動きも活発化しています。

 

尾﨑氏(左)とDMM.make AKIBAエヴァンジェリストの岡島(右)

 

成長途上にある大学発ベンチャー

岡島:大学発ベンチャーで成功した事例を挙げるとどこになりますか?

 

尾﨑:何をもって成功したというのかによりますが、例えば上場したペプチドリーム、ユーグレナ、CYBERDYNE(サイバニクス技術を駆使したロボットスーツ「HAL」を開発)は良く知られたケースで時価総額は数千億のレベルに達していて、売上も数十億くらいになっています。
未上場であってもSpiber(世界初の合成クモ糸繊維「QMONOS」の量産化に成功)やマイクロ波化学など、「これまでと違う世界を創るための石をしっかり投げこんでいる」という意味ですばらしいと思います。

僕は産総研(AIST:国立研究開発法人産業技術総合研究所)やJAXA(宇宙航空研究開発機構)のお手伝いもさせていただいています。大学だけでなく研究機関でもベンチャーの動きは活発化していて、国として世界と伍して戦えるベンチャーを1つでも2つでも生み出すという大きな流れを感じています。

 

大学発ベンチャーは黒字化が難しい

岡島:研究開発をベースとするベンチャーはハードウェアスタートアップ、特に既存の技術や部品を組み合わせて製品化するチームとは根本的に違い、黒字化しづらいというイメージがあります。尾﨑さんはどのようにとらえていますか?

 

尾﨑:そうですね、ハードウェアスタートアップ同様、というかそれに輪をかけて不確定な要素が多いぶん、時間がかかる印象です。
大学発ベンチャーももちろん成長を目指していますが、強い意志をもって邁進している大学発ベンチャーがある一方、量産化の壁や、資金調達、また状況によっては受託研究で忙しくなってしまって本業に時間が割けず、失速して存続可能なところで落ち着いてしまうというケースはよくあります。それでも生きていかなければならないので、無理なからんことですが、それではいわゆるベンチャーとは言えません。

 

岡島:研究成果をベースにすることから、大学の先生がベンチャーのCEOになるケースが多いと思いますが、その場合の難しさはありますか?

 

事業にはミッションオリエンテッドな思考が大切だと語る尾﨑氏

 

 研究者なのか経営者なのか

尾﨑:難しさはあります。筑波大の山海先生(CYBERDYNE CEO山海嘉之教授)からお聞きしたことですが、問題や壁に直面するのはどのベンチャーにでも起こり得ることです。ただ、その問題に対処しようとする姿勢として、そのまま研究を続けることでアプローチをし続ける人と、その問題をうまく迂回してでも先に進もうとする人がいるそうです。

何が何でも事業を成功させたいというミッションオリエンテッドな思考であれば、その問題を迂回しても構わないはずです。ところがそうではなく、壁に対して単一のアプローチで挑み続ける人がまだまだ多い。それは研究に対する矜持があるからに他ならないのですが、もちろんそれが悪いと言っているのではありません。ただ、そこに固執し過ぎてしまうとあらゆる観点で経営にとってのリスクでしかありません。

 

岡島:経営を見るというより技術面を注視してしまうということでしょうか?CEOよりもCTO、場合によってはいち研究者として振る舞ってしまう方が多いという印象もあります。

 

尾﨑:CEOにはマネジメントの資質が必要で、研究以外にも色々なことをやる必要があります。そういう点では、大学の先生に必ずしも適正があるわけではない。さきほど述べたとおり、経営に対してではなく、自分の技術にコミットし、周りが見えなくなるケースもあり、場合によっては経営を適性のある人に任せるほうが良い。但し、適正のある人探し、これはこれで問題ですが。

 

大学から起業する人材を育成するEDGE-NEXT

岡島:起業家を育成するという視点では、尾﨑さんや私も参加したEDGE-NEXT(Exploration and Development of Global Entrepreneurship for NEXT generation:次世代アントレプレナー育成事業)がありました。大学等の研究開発成果を基にした起業や新事業創出に挑戦する人材の育成、関係者・関係機関によるベンチャー・エコシステムの構築を目的として、平成29年度から平成33年度までの原則5年間の期間で実施される文部科学省の補助事業です。

 

尾﨑:筑波大のEDGE-NEXTの中でも、骨太の研究をやっている教授がいる一方、大学とパーマネントの契約を結んでいない若手の研究者や学生など、大学に残る道と出ていく道、双方をにらみながら、何とか活路を見出そうとプログラムに参加される方がいます。これまでと違い、研究室に残って競争的資金を獲得していくことだけでなく、自身の研究でベンチャーを興すことを選択肢にする人が増えてきているように感じます。とはいえ、そういった大学の先生や研究者たちは研究や技術には明るくても、事業計画、資金調達、マーケティングなどベンチャーとして必要な要素については全くといっていいほど明るくない。そこに対して、壁打ち的な基礎から、実践的なところまでを外部のメンターを交えながら磨き上げるという事業になっています。

 

大切なのは、人と会うこと――企業と大学のミートアップ

岡島:企業は大学の研究室に対してどのようにアプローチしているのでしょうか?

尾﨑:いわゆる産学連携をどうやっているか、ということですね。
情報収集をしたうえで、将来的に自社製品に生かせるのではないかとゆるめにアプローチされる企業も多いです。あとは、目下解決すべき課題が明確で、それを解くためにあの研究室のあの技術を使いたい、というケースはマッチングしやすいです。はじめは研究会やコンソーシアムができてから共同研究に発展する場合や技術指導のみというのもあります。大学によっては各研究室が持っているシーズ集をまとめているところもあるので、そこから情報を得たり、地域性や行き来の経費を考えてご当地の大学、例えば名古屋の企業だったら名古屋大や名工大に探しに行くということも多いです。

最近では、JST(研究開発法人科学技術振興機構)やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)、トーマツベンチャーサポート、私も理事をやっているTXアントレプレナーパートナーズなどで行っているピッチイベントなどに足を運ぶ方たちも増えていますね。

 

岡島:DMM.make AKIBAでも、「AKIBAでつながる交流会 ~Academic Night~」として東京大学の現役研究室がデモンストレーションするイベントを開催しています。こういう場も情報収集や出会いのきっかけになるかもしれませんね。

 

尾﨑:大切なのは人と会うことです。時代遅れといわれるかもしれませんが、事業は人だと思っています。直接会って話して人となりがわかり、信頼し信頼されて事業は成長していく。ビジコンや補助事業の審査などをやるときも、技術や事業プランはもちろんですが、チームの可能性や人となり、たとえ提案の事業が失敗してもただでは起き上がらないような意思を僕はみています。必ずしも技術が世界トップである必要はなく、マラソンでいうトップ集団に入っていれば、後はアウトプットをきちっと出すためのマネジメントの出番。企業はこの点において、大学よりも多くのリソースやノウハウがありますから、まずは一緒にやっていけそうかという「人」をみて、付き合って、チャレンジして、こけて、立ち上がってというのを繰り返してタフな事業になっていくのだと思います。

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(取材・文 後藤銀河)

 

 

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岡島康憲
DMM.make AKIBAの企画・運営及びエヴァンジェリストを担当。 電気通信大学大学院修了後、ビッグローブ株式会社にて企画運営を担当。 2011年、岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発やハードウェア商品の企画支援を行う。 2014年よりDMM.make AKIBAにジョイン。 2017年、IoTセンサー向けプラットフォームを提供するファストセンシング株式会社を創業。
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