DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

フランス発アクセラレーター「USINE IO」が明かす、フレンチテックを後押しするエコシステムとは

Usine IO CEO Benjamin Carlu氏(左)とAKIBA 真島(右)

世界的に注目を集めるフランスのスタートアップ。その成功を支えるのは、フレンチテックを始めとするスタートアップを支えるエコシステムがある。
そのフランスを代表するアクセラレーターのひとつ「Usine IO(ユージンアイオー)」のCEO Benjamin Carlu氏がDMM.make AKIBAに来所、2019年1月17日にフランス大手企業やスタートアップの取り組みについて語られた。
当日の司会進行は、DMM.make AKIBAのコミュニティマネージャー エバンジェリスト 上村遥子とグローバルマーケティング&セールス プロデューサー 真島隆大が務めた。

【Usine IOについて】
Usine IOは、450社のスタートアップ企業を含む600以上のプロジェクトをサポートしており、支援してきた企業はVCやクラウドファンディングを通じて3,800万米ドル(約42億円)以上の出資金を集めた実績を持つ

Carlu氏とUSINE IOのメンバー達

オレンジ色の鮮やかなジャケット姿で登壇したCarlu氏。同氏がCEOを務めるUSINE IOは、プロダクトを開発しようとするハードウェアスタートアップ向けのコーチングサービスであり、パーソナルトレーナーとして機能するものだ。USINE IOがスタートしたのはAKIBAの開設とほぼ同時期の2014年。これまでに600件以上のプロジェクトをサポートしてきた。実績として、アイデア段階で100件あったとして、コーチングを通して製品化に至るのは5件程度だという。

そのUSINE IOのプログラムは3つの要素から構成されており、1つ目はスタートアップをコーチングするためのチームで、プロジェクトマネジャーを中心に、デザイナー、機械系エンジニア、電子系エンジニアなどから構成されている。2つ目は、プロジェクトを加速するためにインハウスで開発したメソドロジー。そして3つ目が世界中に広がるインダストリアルネットワークだ。

プロジェクトが開始すると、各スタートアップはUSINE IO側のプロジェクトマネジャーと週に1~2回のミーティングを持つ。そしてチームからはデザインとメカ設計、電子設計の視点から取り組むべき課題が毎回与えられることになる。そしてチームはコーチングを受けつつ、プロジェクトのステージによって必要とされるネットワーク、サプライヤやインキュベーター、投資家などへのアクセスが可能になる。

USINE IOのコーチングツール。アイデア段階ではイノベーションヘルプデスク、その後プロトタイプから量産設計までの長い期間をチームによるコーチングがサポートし、量産フェーズではFOCUSというプログラムでマッチメイクする

また、2017年からは「FOCUS」と呼ぶアクセラレーションプログラムを立ち上げ、量産化に向けたビジネス面でのマッチングをサポートしている。

FOCUSによるマッチングのイメージ。□が大手企業で○がスタートアップだ

FOCUSプログラムがサポートするのはスタートアップと協業する大手企業とのマッチングで、期間は1~4カ月。進め方として、予めモビリティやインダストリー4.0、小売りなどテーマごとに大企業を6社、スタートアップを10社集めて最初の1カ月で全員が顔合わせを行う。

そして大企業側が連携相手のスタートアップを選定してUSINE IOに伝え、3カ月ほどのメンタリング期間を通してプログラム終了時には10組のコラボレーションを生み出すことを狙っている。

 

USINE IOが支援したトップクラスのスタートアップたち

SHADOW

「SHADOW」:小型のエッジ端末を月額30ドルでレンタルするだけで、データセンターの強力なメインフレームをゲーミングPCとして利用できるというサービス。

STANLEY ROBOTICS

駐車場の最適化を実現するロボットシステム。フランスのシャルル・ド・ゴール空港にも導入され、混雑する空港の駐車場の有効稼働率を50%も引き上げたという。

Timescope

双眼鏡を覗くと、昔の街並みが360度VRで再現されるという観光用デバイス

Agricool

廃コンテナを活用した野菜栽培設備をパリの街中に置き、“スーパーローカル”な食糧生産を行っている

次にCarlu氏は、今回のメインテーマである、フランスのスタートアップと大手企業の協業について、以下のように述べている。

 

フランスがスタートアップ大国と言われる理由――政府からの手厚い支援

フランスではここ10年、スタートアップが大幅に数を増やしたが、社会保障と優遇税制という2つの仕組みに支えられているところが大きい。特にフランスの失業保険は手厚く、給与の50%が2年間、国から支給されるため、若者のみならず、30~50歳の中高年が独立して起業するというハードルが低くなっている。

加えて、これまでスタートアップとは無関係だった、フランスの富裕層からのエンジェル投資を増やすため、スタートアップに対する支援額の一部を所得から控除するという優遇税制も、かつては実施されていた。このようにスタートアップに対するさまざまなインセンティブが政府主導で用意されていることが、欧州の中でも特にフランスがスタートアップにとって魅力的だという大きな理由となっている。

 

パリを中心として数十ものインキュベーターやアクセラレーターが集まる

パリを中心としたインキュベーター、アクセラレーターなどを示した地図。フランスのスタートアップの8割はパリを拠点としており、インキュベーターやアクセラレーターもパリに集中している。

これは1年前の地図だが、公的なものから独立系のものまで、パリを中心に数十のインキュベーターやアクセラレーターが集まっている。インキュベーターは主にスタートアップの最初の6~9カ月間を支援し、その後アクセラレーターが投資、技術パートナー、ビジネスパートナーという3段階のレベルで支援を提供する。

現状、スタートアップの数に対して支援施設がやや供給過剰になっており、例えば食品や農業関係などスタートアップの専門領域に特化した施設が増えているとのことだ。

世界最大級のコワーキングスペース「Station F」。

そして、フランスでのイノベーションエコシステムの象徴ともいえる「Station F」が2016年6月にオープンした。100年前の駅を改装した施設で、広さ3万3000平方メートル、3500人が入れる施設で、スタートアップや投資家、VC、大企業なども入居している。先ごろ徒歩15分くらいのところにスタートアップ専用の賃貸マンションが開設されたとのことだ。スタートアップにとって、ビジネスのみならず衣食住まですべて賄うことができる場所となっている。

 

日本のスタートアップがフランスで起業することのメリット

次にCarlu氏は、日本を含めた海外のスタートアップがフランスに来ることのメリットに触れた。まず、フランスという市場について、同国の人口は約7000万人、周辺国を合わせると2億5000万人ほどで、これはアメリカにほぼ匹敵する市場であり、フランスはヨーロッパ全体のゲートウェイになり得ることを強調している。

そして、海外スタートアップがフランスを選択すべき2つの大きな理由があるという。一つ目は「フレンチテックビザ」。これはスタートアップに発給されるビザのことで、申請書類をインキュベーターが確認するだけで、チーム員全員にワーキングビザが発行されるというものだ。もちろん家族分の申請もOKだ。

2つ目は、「大手企業のマインドセット」。スペイン、ドイツ、イタリアなどと比較しても、フランスの大企業は積極的にスタートアップと協業しようというマインドセットができている点だ。大企業がスタートアップと協業することに興味を持っているため、まだ製品化前のプロトタイプ段階でもテストし、資金を提供することもあるという。フランス以外ではスタートアップとの協業相手は中小企業が中心で、対応に苦労しているところも多いとのことだ。またイギリスは優秀な学生を輩出する大学も多いが、スタートアップとなるのはハードウェアよりもフィンテック関連が中心になっている。

フランスの大手企業はスタートアップとの連携に積極的だと語るCarlu氏。ヨーロッパの他国に比べてもそれは顕著だという。

フランス企業との協業で考慮すべき点

フランスの良い点も多いが、一方でマイナス面もある。最も大きな障害は、フランスのスタートアップとのコミュニケーションで、英語は不得手という会社が多いようだ。次に、フランスの特徴として、医薬品や食品関連の規制は他国に比べて厳しいこと。ただこれは逆に、フランスの基準にパスすれば世界中のどこにでも持っていけるとも言えるので、必ずしもマイナス要因ではないだろう。

 

B2C製品にとって、ヨーロッパ市場はアメリカよりも難しい

フランスの良い点悪い点について触れたCarlu氏は、続いてヨーロッパへ製品を輸出しようというスタートアップが考慮すべきポイントに言及した。それは、製品がB2BかB2Cかによって、販売ネットワークが大きく異なるという点だ。例えば家電のようなB2C製品をヨーロッパに出そうとする場合、欧州全域をカバーするディストリビューターは少なく、どうしても国ごとにディストリビューターを見つけることになる。これがアメリカ向けであれば、大手のディストリビューターを探すだけで全米の小売店に商品を並べることができる。つまり、産業向けのB2Bであればこうした問題はないが、ヨーロッパにB2C製品を輸出するのはハードルが高く、十分に考慮する必要がある。B2Cを大きく売りたいのであれば、欧州よりも北米市場を狙うべきだろう。

また、逆にヨーロッパのスタートアップにとっての輸出という視点では、ハードウェアかソフトウェアかで大きく違うという。先ほど述べたようにB2C製品やソフトウェアであれば、まずはアメリカ市場を狙うが、ハードウェアスタートアップの多くはそうではないという。フレンチデザイン、メイドインフランスで、アジア市場を狙うスタートアップが多い。USINE IOが支援したスタートアップに、優れたフィルター機能を備えたスマートマスクを製品化したR-PURという会社があるが、当初からアメリカは視野にいれておらず、アジアのマーケットを狙っているという。

 

海外のスタートアップに向けた情報発信が大切

それに関連してCarlu氏は、アジアマーケットと言ってもして、スタートアップを支援するプログラムは台湾や香港、そして日本など国によって異なるとし、フランスのスタートアップにとって最も大きなチャレンジはこうしたプログラムについて正しく理解することだと語った。例えば日本での起業を考えたとき、どのようなアドバンテージがあるのか、設立するための制約など、必要な情報を共有できればソフトランディングしやすくなるとし、日本のエコシステムとの連携の必要性を指摘した。

 

(取材・文:後藤銀河)

 

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真島 隆大
グローバルマーケティング&セールス プロデューサー スイスで幼少期を過ごしイギリスの大学を卒業後、帰国。人材、イベント代理店を経てゲーム業界でオフ・オンラインマーケティングに従事。DMM.make AKIBAでは営業、マーケティングをはじめ、海外事業を担当。
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