DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

地域のつながりこそがオープンイノベーション成功の鍵――新規事業創出を支える行政の取り組みとは

企業によるオープンイノベーションの推進は世界的な潮流であり、FACTでもこれまでフランスやイスラエルといったスタートアップ大国を紹介してきた。各国で開催されている既存企業とスタートアップのマッチングは、必ずと言っていいほど地域に根付いた行政の取り組みによって支えられている。

海外に比べて遅れているとも言われる日本のオープンイノベーションだが、行政としてどのような支援を用意しているのか。企業の新規事業者向けの事例や施策を中心に経済産業省の関東ブロック機関である関東経済産業局の渡邉亨氏に伺った。

 

――関東経済産業局では、3年前ほどからオープンイノベーションに関する取り組みを始めたと伺いました。どのようなきっかけで始められたのでしょうか。

 

競争環境の激化による自前主義からの脱却が求められている

渡邉氏:よく言われていることですが、大手企業の競争環境が厳しくなってきており、自社リソースだけで新しい顧客の価値を生み出すイノベーションを起こすのは難しいと、多くの企業が感じています。サービスや製品のライフサイクルがどんどん短くなっていて、使うユーザーのトレンド、嗜好も目まぐるしく変わっていて、正確に捉えるのは難しい。

こうした状況の中で、自前主義から脱却し、オープンイノベーションに取り組むということは、企業にとっての必須の戦略だと認識しています。

 

近年、オープンイノベーションの担当部署や関連施設などを設ける大手が増えています。その一方で、社会課題の解決を目指す大手のパートナーとなるべき中小企業やベンチャー企業が、うまく大手にアクセスできていないという状況があります。

 

関東経済産業局がリエゾンセンターとなり、企業間を結ぶプラットフォームとして機能する。以下出展は「関東経済産業局におけるオープンイノベーション促進に係る取組」)

渡邉氏:そのため、関東経済産業局がリエゾンセンターとなりながら、各企業のオープンイノベーションを進めたいと考える熱量の高い人を結びつけられるような役割を担うプラットフォームをスタートしました。

 

狙いは、広く日本をカバーするイノベーションエコシステムの形成と、日本の中でも産業特色のある地域のプレーヤーの支援です。そのため、広く自治体、産業支援機関、大学、金融機関に、サポート役、ハブ人材として入っていただき、オープンイノベーション活動をスタートした企業に対して、新しい交流の機会や実践の機会を提供していきたいと考えています。

 

特に、最近では売上高が100~1000億円程度の中堅企業でも、オープンイノベーションに関心が高まりつつあります。中小企業やベンチャー企業にとって、非常に大きな成長のチャンスとなりますから、外部連携を通じて自社の成長を実現したいと考える企業に参画して頂き、うまく行政のプラットフォームを使って頂ければと思います。

 

――具体的な活動例をご紹介いただけますか。

渡邉氏:具体的な取り組みとしては、大きく分けて次の3つを柱としています:

・オープンイノベーション促進に係るネットワーク形成・強化

・オープンイノベーションを実践するための多様なマッチングの機会の提供

・オープンイノベーションに強い専門家(弁護士や弁理士)の参加促進

 

オープンイノベーション促進に係るネットワーク形成・強化

渡邉氏:まず、ネットワーク形成・強化についてですが、オープンイノベーション促進に取り組む方同士が相互理解を深めていただく交流会を開催しています。2018年度は、8月に第1回を開催し、12月に第2回を予定しています。

 

第1回交流会では、行政機関から出している「オープンイノベーション白書」の解説や、大手企業としてLIXILの取り組みなどを紹介。今後年2回のペースで開催予定とのこと

オープンイノベーションを実践するためのマッチングの機会の提供

渡邉氏:次にマッチングについては、「ニーズプル型」「シーズプッシュ型」「ビジョン共有型」の3パターンに類型化して進めています。

 

渡邉氏:まず「ニーズプル型マッチング」には、「対話重視型マッチング」「オープンイノベーションチャレンジピッチ」の2つの活動があります。対話重視型マッチングは、大手企業が抱える社会性の高い技術課題に立脚した取り組みとし、課題に対するソリューションを持っている中小企業やベンチャー企業が提案し、協創に向けて対話を進めていく形になります。ナインシグマ・アジアパシフィックを事務局として進めています。

大手企業の社会性の高い課題として2018年はJR西日本と山九がエントリーしている

渡邉氏:ここでは、大手企業と課題に対する理解を深めるリアルな対話を重視したマッチングを行っています。2018年度はJR西日本と山九が、社会性の高い課題が示されました。JR西日本の課題は、車椅子の乗客でも駅員のサポートなしに、可動式のプレートを使うことで電車に乗れるようにするというもの。山九は、プラントエンジニアリングなどを手掛ける会社ですが、老朽化した鉄塔などのメンテナンス時に、親綱と呼ばれる命綱を簡単かつ安全に張るというものです。どちらも同業他社も直面している課題であり、解決策は業界で横展開できるものになります。大手側から、何をやりたいのか、分かり易い課題の出し方を試しながら進めていて、オープンチャレンジに踏み出す機会として、うまく利用して頂いています。

 

科学技術機振興機構(JST)と共催で、オープンイノベーションチャレンジピッチを開催している

渡邉氏:ニーズプル型として、オープンイノベーションチャレンジピッチを開催しています。これは、先ほどの対話型ほどではないとしても、オープンイノベーションを積極的に進めたいと考える大手企業向けに、自社が実現したい方向性や抱えている課題を、より多くの人にリアルなネットワーキングの場でアピールする機会という位置づけです。科学技術機振興機構(JST)との共催で2018年度に3回予定しています。ピッチの聞き手として、大手の戦略やニーズをキャッチアップしたい大学関係者、地域の産業支援機関、行政機関、その他コーディネーターやハブ人材を中心として、約100人に参加いただいています。

 

 

渡邉氏:次に「シーズプッシュ型」ですが、これは中堅・中小企業とベンチャー企業のマッチングを推進する取り組みで、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと一緒にやっているものです。大手企業とベンチャー企業という組み合わせは、つながる機会もイベントも増えてきていますが、行政としては、中堅や中小企業まで、より多くの企業がオープンイノベーションを通して成長してほしいという思いがあります。会社規模は小さいですが、スタートアップとのスピード感や判断スピード、そして市場規模も親和性が高いと考えています。

 

ベンチャー企業が持っているプロトタイプをもとに、中小企業がすぐに現場で使えるソリューション、例えば検査工程の自動化や需要予測など、ベンチャーの技術を自社の製品やサービスに組み込んで、ソリューション力を高めていくというチーム作りを想定しています。ベンチャー企業にとっても、潜在的なパートナーの発掘と自社ソリューションの実装実現に繋げたいと考えています。具体的には2、3チームを個別に引き合わせ、2018年度末にデモデイを開催する予定です。

 

マッチングの3つめは「ビジョン共有型」です。2018年3月に、AIをテーマとしたワークショップを開催しました。AIや自動運転が当たり前になった将来に、登場しそうなビジネスモデルだったり課題だったり、将来から現在に議論を引き戻しながら、将来を見据えたどのような連携が有効なのかというディスカッションをしていただく場です。参加者として、日々のビジネスではなかなか接点のない人たち同士が議論できるよう、企業だけでなく地元の自治体や大学などに入ってもらって交流を深める場として提供しています。

 

オープンイノベーションに強い専門家の参加促進

社内リソースが限られる中小にとって、協業や知財に関わる外部専門家からのアドバイスは重要だ

渡邉氏:活動の3本柱の最後は弁護士や弁理士など知財や契約に関する専門家の参加促進です。会社規模の大きな大手企業では、オープンイノベーション推進部署や法務部門、知的財産部門など、フルセットで推進できますが、中小企業やベンチャーでは自社リソースが不足しており、外部の専門家としっかり連携して、アドバイスを受ける必要があります。大手と中小とのパワーバランスの違いを見える化して是正し、しっかり補強したいと考えています。

 

――こうした活動に参加されている多くの企業担当者に、共通の悩みのようなものはありますか?

渡邉氏:これまで3年ほど活動してきた中で、80社くらいのオープンイノベーション担当者のお話を聞いてきました。感じるのは、既存の枠組みを超えたパートナーと協創していくに当たり、まずは社内で自分たちの活動に対する信頼関係をどのように構築していくのか、ということに苦労されているようです。

 

――社内から、何をやろうとしているのかわからない、と言われていると?

渡邉氏:自社の研究開発部門が積み上げてきたものがあるわけですから、社内の活動をしっかり見ずして外部リソースや外部連携を進めるのか?といった疑問も、よく聞かれます。オープンイノベーションがうまく機能している企業では、例えば、解決すべき課題を社内横断的に集めて、外部から適合するソリューションを導入し、マイルストーンを設けながら連携による成果を整理し、感謝されて社内の信頼感を勝ち取るという好循環が生まれています。このための、最初の1歩をどう踏み出すのかに苦労されている方は多いですね。

 

行政が提供するネットワーキングを使い、他社の成功事例から学ぶこと

――そうした悩みに対し、関東経済産業局のプラットフォームが力になるわけですね。

渡邉氏:行政として、ネットワーキングの提供が最大の支援だと考えています。行政のプラットフォームを使い、信頼関係が構築できるような具体的な成果を共有し、マッチングの機会を提供しています。他社の成果を自社に当てはめて考えて、何が出来るのかというヒントを持ち帰る機会になります。

また、大手企業のオープンイノベーション担当者による交流会も有効です。ビジネスでは繋がる機会がない企業同士でも、行政など公的機関が進めるプログラムであれば参加しやすいというメリットもあります。担当者間で、お互い困っていることをシェアしたり、ディスカッションしたりすることで、活動のヒントになったり、心の支えにもなると思います。

 

――オープンイノベーションを推進する上で、渡邉さんが重要だと考えていることを教えてください。

渡邉氏:オープンイノベーションに関するサービスや組織がどんどん立ち上がってきていますが、そうしたサービスを通じて成功した事例、取り組みによる成果を見える化すること、それを対外的に発信することが大切だと考えています。それによって、サービスの利用方法もわかってきますし、サービスに委ねるべきところと自社独自でやるべきところの区切りが見えてきます。

オープンイノベーションという文化を創っていくことも大切ですが、具体的な実のある案件にしっかり結びつける必要があります。たとえ小さな事例でも成長につながったことをオープンにしないと、活動自体が息切れしてしまいます。具体的な成功体験を積み上げるために、行政としては省レベルでの制度設計と局レベルでの現場のネットワーク作り、この取り組みの中から生まれたものを公表し、発信していきたいと考えています。

 

――今後、どのような点に力をいれていきますか?

渡邉氏:オープンイノベーションのハブとなる民間施設のプラットフォームもできています。うまく首都圏ベースのオープンイノベーションサービスと連動しながら、仕組みづくりが出来ればと思っています。また、オープンイノベーション促進に繋がる地域ベースの取り組みなどを事例として示しながら、これから動こうという意欲のある自治体や金融機関などにも知ってもらいたいですね。

地域の支援コーディネーターのような人たちがどんどん参加して、民間のオープンイノベーションサービスと有機的につながることで、熱量の高い方々が出会う偶発性が高まり、もっと密度の濃いネットワークを構築できると思っています。

(取材・文:後藤銀河、聞き手:越智岳人)

 

 

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オープンイノベーション促進に係る取組について(関東経済産業局HP)

http://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/open_innovation/index.html

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