DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

本業の片手間でオープンイノベーションは起こせない――素材の提供から始まる縁とコミュニティ

DMM.make AKIBAのSTUDIO(工房スペース)の入り口には、誰でも自由に利用できる樹脂や金属、ゴムなどの素材が並べられている。

これらの素材を提供している企業が松山工業だ。

代表の鵜久森洋生氏は、工場で不要になった様々な素材を「リサイクル材」として回収し、DMM.make AKIBAのようなメイカースペースやロボットコンテストの会場で配布することをきっかけに、スタートアップや学生との深い関係を構築してきた。「何よりもご縁を大事にする」と語る鵜久森氏の活動を掘り下げると、オープンイノベーションを生むためのコミュニティの作り方が見えてきた。

 

鵜久森 洋生(うくもり ひろお)
1990年テキサス州立ストラットフォードハイスクールを卒業後、法政大学に入学。卒業後はオフィス家具の岡村製作所に入社。2001年6月に松山工業株式会社に入社したのち、2010年12月に同社3代目代表取締役社長に就任。

 

スタートアップを支援する「リサイクル材」の提供

 

―――「リサイクル材」の提供を始めたきっかけを教えてください。

 

「松山工業はシリコーン原材料やゴム加工品を扱う商社です。昭和30年代以降のブラウン管テレビ全盛期には、高圧部で使われるアノードキャップの製造に従事し世界シェアの50%が弊社製品だった時代もありますが、そうした過去の実績にとらわれ過ぎないよう、国内協力先との関係性を重視するように舵を切りました」

 

「私自身はサービスロボットの分野で何か取り組みたいと思っていたのですが、将来的な需要は見込めるものの、2005年頃当時にはまだ市場がありませんでした。そこで、将来に向けたプロモーション活動の一環として、お付き合いのある工場から不要となった素材を提供いただき、それらをロボット競技会で提供する活動を始めました。

最初に工場の方々に提案したときは『こんなもの誰も持っていかないでしょう』と言われましたが、いざ当日になるとブースに行列ができて30分で全て無くなってしまったんです。
そこから工場の方々の認識が変わり、リサイクル材としての提供に価値を見出し、他にも協力できそうなことがありそうだと意識が変わっていきました。

 

そうした活動から派生して、学生や工場の人たちが繋がるコミュニティを作り、工場見学や交流会などを積極的に開催してきました。DMM.make AKIBAのことは立ち上げ当時からSNSなどを通じて知っていましたが、会場をお借りしてミートアップイベントを開催した際に、ここにもリサイクル材を提供できるだろうと直感したんです」

 

DMM.make AKIBAには月に1回程度のペースでリサイクル材を供給してる鵜久森氏。配布のコツは「綺麗に整頓すること」。

 

「スタートアップの活動には勢いがありますが、利用すべき素材についてはあまり知識がなく、何も分からない状態で購入しても金銭的なリスクを背負うことになってしまいます。生まれたての企業のリスクをちょっとでも軽減したいという思いから、交流のあった技術スタッフと相談してリサイクル材の棚を設置することになりました。

ゴムを中心に樹脂や金属などの素材を提供しており、緩衝材や水中ロボットの浮力材などの用途で利用されています。AKIBAの利用者の中には、プロダクトではなく工作機械の防振に活用するケースもあります。提供する場所によってリサイクル材の人気は全然違うんですよ」

 

リアルな現場を知り、数年単位でスタートアップと付き合う

 

――こうした活動は松山工業の業務にも影響をもたらしたのでしょうか?

 

「リサイクル材の提供をきっかけに、『こんなことができないか?』という相談が松山工業に届くようになりました。提供したリサイクル材を試作に使った後で、正式なオーダーに直結するケースも少なくありません。また、今まで関係のあったお客様とは異なる層の方々にコンタクトできるようにもなりました。

こうした活動を通じて繋がった取引先が、既存のお客様も含めた売り上げの上位に入るようになってきています。とはいえ、このケースでも量産の相談をいただくまでには6-7年かかっています。スタートアップのサポートでは我々の業界の常識外で色々な事が起こるので、長期的な視野を持って対応することが重要だと感じています。

松山工業としては成果が出るまで10年かかっても良いという心づもりで接していますし、こうしたアクションの結果、直接の収益に繋がるのは1~2割あれば良い。その他に関しては、ご縁を深めるための活動だと捉えています」

 

――必ずしも収益を優先しているわけではないのですね。

 

「もちろん、企業が存続するために収益を求めることは必要ですが、その求め方をどうするかが問われています。とにかく目の前の収益性を重視するのか、それとも長く続いていく人との関係性を重視するのか。私自身はお客様や周りにいる方々、協力工場とのご縁を深める活動に取り組んでいますが、それが結果的には松山工業全体の収益にも繋がっていくと思っています。

 

外部から注文を受けてパーツや素材を提供する動き方だと、決まった要件に対していかにコストを落として提供できるかという体力勝負になることが多い。ですが、最近私たちに寄せられる相談には『そもそもどんな素材を使うのか?』といったものが多く、開発の上流から要件を一緒に詰めていくような動き方になるので、単純なコスト勝負には陥りません。おかげさまで、時代に反して松山工業の収益性も良くなってきています」

 

業務の片手間でオープンイノベーションは起こせない

 

――新規事業やオープンイノベーションの担当者は、どのように動くべきでしょうか。

 

鵜久森氏は肩書きも関係ないフラットな関係を重視するため、こうした場ではスーツではなく私服で活動している。

 

「まず、利益誘導型の仕組み作りはもう通用しないと理解すること。そして何よりも重要なのは、リアルな体験をすることです。人と会話したり、ものを作っている現場を見たり、ときには一緒に手を動かしたりする。トレンドを調べて抑えることも有効ですが、現場の様子を知らずにイノベーションを起こすのは100%無理だと思っています」

 

「他方、ほとんどの大手企業ではオープンイノベーションのための取り組みがあくまで副次的な活動として捉えられています。現場に浸るための活動を企業側に認めてもらうハードルが高く、そこに苦しんでいる方が非常に多い。『本業をしっかりやったうえで、さらにオープンイノベーションに取り組め』という態度は間違っているし、むしろオープンイノベーションのための活動が本業でないならば何も起こせません

 

―――松山工業では経営者である鵜久森さん自身がオープンイノベーションのために奔走していますね。

 

「確かに経営者自身がこうした活動に取り組むケースは珍しいかもしれません。私自身が新しい需要を探す活動を続けているうちに、いつの間にかそれが他の社員にも影響を与えていたようで、自主的に新しい素材を見つけてきたり、それを大手企業に紹介して商談に繋げたりといった変化が生まれてきました。今では社員と相談したうえで、既存のお客様には社員が対応し、新規性が高く数字には表れにくいことには私が率先して取り組むという棲み分けができています。

 

「ひとつの大きな成果として、2017年の国際ロボット展ではそれまでの活動で繋った人々に声をかけ『ロボット体験・企画コーナー』企画・運営に取り組みました。
AKIBAともつながりのあるブロック団やTRYBOTSにも参加いただき、500㎡の会場に1万人以上の来客がありました。
これが結果として松山工業のブランディングに繋がり、業務の引き合いも増やすことができました。規模が大きく私は2か月ほど準備にかかりきりになったのですが、社員の理解があったからこそ実現することができたイベントだと思っています」

 

 

今後は企業同士を繋ぐ活動に力を入れながら、ブランディングなどの実務の側面からもスタートアップを支援していきたいと語る鵜久森氏。経営者が率先して「本業として」オープンイノベーションに取り組むことで、多くの成果が生み出されていた。

 

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