DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

ビジネスパーソンは技術のシードをどのように捉えるべきか――コミュニケーションギャップを埋めるフレームワークとその活用法

DMM.make AKIBAに集うハードウェアスタートアップの多くは、先進的な独自技術をコアとして製品化に取り組んでいる。こうしたスタートアップとの協業を進め、高い競争力を生むモノづくりを実現するためには、経営やマーケティングの視点から捉えた市場ニーズと、ハードウェアスタートアップが保有する技術シーズを、的確にマッチングさせる必要がある。

では、自社の製品やサービスの付加価値を高めたいと考えるビジネスパーソンは、どのように技術サイドへアクセスすべきなのか。2019年7月にAKIBAにてTECH VIS「技術活用法をビジネス側から考えるワークショップ 」を開催したCo-cS(コークス)株式会社 CEO 重枝真太朗氏に、イノベーションを生み出すため、経営やマーケティングサイドと技術サイドのコミュニケーションを円滑に進めるプロセスについて、お話を伺った。

 

Co-cS(コークス)株式会社CEO 重枝真太朗氏

重枝氏:始めに「Co-cS(コークス)」という社名の由来ですが、Co-creation(共創)とSublation (止揚)を合わせた造語で、共創を大切にしつつ、対立する2つの概念をぶつけて高次元の解を見出すこと、一人ひとりをイノベーターにしていくことを目指しています。

私は、重工関係のエンジニア出身で、以前からどうしたらモノづくりにイノベーションを起こせるのかに興味を持っていました。モノづくりを支援するために、ニーズとシーズに着目し、この関係性を整理して見える化する手法、そのフレームワークが、私たちが提唱する「Tech Structure(テック ストラクチャー)」です。

 

ニーズとシーズを見える化するTech Structure

車載カメラレンズに適用したTech Structureの例。左がマーケット側、右が技術側を表す

重枝氏:このTech Structureのポイントは、ニーズとシーズを1枚で表しているところです。マーケット側と製品側の情報の関係性を整理し、1枚の図の中で繋ぐことを大事にしています。1枚にまとめることで情報が洗練され、読みやすい上、アップデートも容易になるというメリットがあります。

このニーズとシーズを合わせていくという考え方自体は、どのメーカーでもやっていることで、私自身も前職の会社で勉強しました。ところが、従来の手法では、情報の粒度が細かく、実際に自分が製品開発の現場の中にいたら、全てのプロジェクト、製品開発で、こうした関係性を明確にするのは、労力が非常にかかり、現実的には難しかったです。でも、考え方としてはとても大切なことなのでやってみたい、何とかしたいというジレンマがありました。どうやればいいのかを考えたときに、開発のフェーズによって、情報の粒度は変わってくるので、まずは市場ニーズを機能に落とし込み、機能を技術に落とし込む、そして部品表に落としていく、この全てが繋がっている情報、全体像が一目で分かればよいこと気が付きました。

――大手メーカーであれば、マーケットニーズをもとに商品開発の方向性を決める部署があるわけですが、ビジネスパーソン視点で、自分がやりたいことをどのようにスタートアップと共創すればよいでしょうか。

重枝氏:技術系の共創があまりうまくいかない理由は、ニーズとシーズの粒度が荒く、合っていないからだと考えています。

これは、技術を買うということが、単にモノを買うのではないということです。分かり易く言うと、パソコンが欲しいというケースでは、CPUやハードディスク容量のスペックで比較する場合もありますが、ユーザーは、厳密にはCPUやハードディスク容量そのものを求めているわけではありません。

ユーザーは、オンラインゲームをやりたいとか、音楽を1万曲入れておきたいなどを望んでいるのです。つまり、ユーザーがパソコンで何をやりたいのかをパソコンメーカーがブレークダウンしていくのであれば、実はこういうアプリが使いたいとか、このアプリが希望に近いのだけれど少し直したいといった具体的なニーズが分かるように落とし込んで、それを実現できる技術を取り入れたり、技術を開発したりする必要があります。

――製品を技術に分解する場合、多くの切り口があると思いますが、どのように考えるべきでしょうか。

重枝氏:ビジネスとして実現したいことが、テーマになります。ニーズを解決するための技術を求めるのか、既存の製品やその技術の新たな用途を探したいのか、ニーズ・シーズのそれぞれの視点から拡げていくことになります。

――7月のワークショップでは、株式会社 Piezo Sonic(ピエゾソニック) のピエゾモータを事例として紹介されたと伺いました。具体的な事例を元に、Tech Structureを使うメリットをご紹介いただけますか?

重枝氏:Tech Structureを使うことで期待できる効果として、次の3点が挙げられます。

  • 製品・技術の強み・特徴を把握できる
  • 課題を整理・明確化できる
  • 関係者間の認識を共通化できる

 

事例:ピエゾモータ(超音波モータ)の特徴を活かせる新たな市場を探る

重枝氏:ピエゾモータとは、磁石やコイルを使用せず、圧電セラミックを振動させることで駆動力を得る超音波モータです。一般的なDCモータに比べて小型軽量で、静音性が高いといった優れた特徴があります。

ワークショップでは、ピエゾモータの新たなマーケティングを考えるという視点で、ピエゾモータがどんな機能を持っているのか、どんな特徴があるのかが分かるよう、Tech Structureを使ってブレークダウンしていきました。

 

メリット1:製品が持つ技術の強み・特徴を把握できる

ピエゾモータのTech Structure。技術的な特徴を分解している。

重枝氏:ピエゾモータは高磁場環境でも使えるため、MRI(磁気共鳴画像)装置の中での利用や、通電しない状態でも摩擦力で軸が保持されるという特性から、安全性の確保が必要なロボットなどへの応用が期待されています。他にもピエゾモータの特徴的な機能が必要なシチュエーションを考えることで、新たな応用の可能性を探ることができます。

ここでは、「静音性」という特性が必要なビジネスとして、ホテルサービスに着目して、そのTech Structureを考えています。

 

メリット2:課題を整理・明確化できる

これは、大手ホテルチェーンのTech Structure。ビジネスサイドとしてこの左側で表現されるニーズを、ピエゾモータという技術シーズを繋げるというアプローチだ。

重枝氏:安全・快適なホテルサービスを実現するために、どのような課題が必要なのか、Tech Structureでブレークダウンしていくと、そのひとつは「快適な寝室空間の提供」となり、そのため「防音設備」や「快適な寝具」が必要なことが見えてきます。ここで、客室の防音設備といった用途で使われる機器などに、ピエゾモータのビジネスチャンスが見えてきます。

――医療機器用途が中心のピエゾモータをホテル業界で使うという発想は、なかなか技術サイドからは出てこない感じがします。

重枝氏:このプロセスをやっていく中で、色々な人が色々なことを考えるのが大切です。起点はどこでも良くて、こういうことに困っているので解決したいとか、自社が持っている先進的な技術を何とか世に出していきたいとか。何か課題があるのであれば、それをどんどんブレークダウンしていくことで、取り組むべき課題が見えてきます。

 

ニーズとシーズを突き合わせることで、取り組むべき課題も見えると語る重枝氏。

重枝氏:もちろん本当にやれるのか、やれないのか、大枠として企業のポリシーや制約もあるでしょうし、製品としての弱点もあるでしょう。ここは出来ないので努力をするのか、さらに他の可能性を求めるのか、取るべきアクションも見えてきます。

 

メリット3:関係者間の認識を共通化できる

重枝氏:もう一つのメリットが、Tech Structureを使って見える化することで、関係者間の共通言語化が図れることです。技術的な内容がわからない営業畑の方でも、お互いが分かる言葉になって、何を話しているのか、何をしなければいけないのかが見えてきます。

――「技術系は何を言っているのか分からない」とか、「営業の要求は具体性に欠け、何を作りたいのか分からない」といった、コミュニケーションギャップのことですね。

重枝氏:営業から、「重厚な質感にしてほしい」と言われたとしても、ノートパソコンの重量を20キロにしたらダメですよね(笑)。これはすぐに分かる極端な例ですが、エンジニアが具体的に何を作ればいいのか、分からないようなニーズを要件として出されることもあります。

 

Tech Structureは、営業サイドと技術サイドのコミュニケーションギャップを埋めるためのツールとしても使える。

重枝氏:「重厚な質感」をブレークダウンし、必要な材質、求められる重量に落とし込むことで、技術サイドと「重量は20キロでいいのか、2キロなのか」とか「軽量は重要なポイントなので、1キロにしてくれ」とか、要求仕様のキャッチボールができます。仕様として諦めるのか、違うソリューションを求めるのか、きちんと議論するためのコミュニケーションツールとして使えるというメリットがあります。

AKIBAで開催したセミナーでは、ビジネスパーソン、特に経営層や企画部門の方が、技術や製品をどういう形で展開すれば良いのか、それぞれの機能や特徴を活かした形でシチュエーションを考えて頂きました。この技術を使って次の製品はどこを狙うべきか、この業界のこういうニーズに対して使えるんじゃないかという、エンジニア寄り、現場寄りのアプローチを通して、従来とは違う展開が考えられることを体感して頂けました。

――スタートアップが持つ最先端の技術を、分かり易くブレークダウンして理解することで、ビジネスへの活用法が見えてくるということですね。

重枝氏:Tech Structureの右側から左側へと見ていくのは比較的技術サイドの、何かソリューションを持っている方のアプローチになるでしょうし、営業やマーケターであれば、お客さんの声を多く聞き、左側から右側へと何が必要なのかを考えるという形で、活用していく形になるでしょう。

Tech Structureによるプロセスを、イノベーションを起こすためのコミュニケーションツールとして提供することに加えて、こういう形でデータが整理されることで、データベース化しやすいというメリットも生まれます。私たちには、いろいろなメーカーが保有する技術がデータベースの形でストックされています。

――Tech Structureを使って、ビジネス側の要件に擦り合わせられるよう、ブレークダウンした技術情報がデータベース化されているわけですね。

 

技術を分かり易い形で整理してストックすることで、様々なビジネスでの活用の可能性が広がる

重枝氏:キーワードを分析して、抽象的なニーズを具体化し、実現するために何が必要なのかという、要件定義書を作るために必要なデータベースですね。私たちは、Tech Structureという考え方をコアとして、モノづくり・コトづくりに関する情報を日々蓄積しています。

近年インターネットが普及したことで、膨大な量の情報にアクセスできるようになりましたが、自分が必要としている情報なのかどうかを、一目でパッと知るのは難しいと思います。Tech Structureによって、イノベーションの共通言語化ができれば、自分が必要とする粒度の情報にアクセスしやすくなると考えています。

(取材・文:後藤銀河)

 

今回、Co-cs社より「Tech Structure」活用例の

ご紹介資料をダウンロード特典としてご提供しております。

実際のスタートアップPiezo Sonic社の事例を分解してご説明しています。

Co-cs社のTech Structureの活用例 資料ダウンロード

 

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