DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

運転支援AIスタートアップPyreneeが、シャープで量産する理由(特集:my DMM.make AKIBA)

株式会社Pyrenee CEO 三野龍太氏

DMM.make AKIBA(以下、AKIBA)は、数多くのハードウェアスタートアップが集う拠点だが、彼らが製品の量産化に成功してAKIBAを卒業するに至るまでには、数多くの課題がある。特に量産に適した設計や部材の選定、外部の製造会社との連携、量産品質の確保など、難易度の高い「量産化の壁」に直面し、先に進めなくなるケースは少なくない。

今回は、ハードウェアベンチャーの支援活動を展開するシャープのサービスを利用し、まさに量産化の壁を乗り越えつつあるスタートアップである、株式会社Pyrenee CEOの三野龍太氏に、お話を伺った。

※この記事はAKIBAの会員と、コミュニティーが生み出すイノベーションの現場を紹介する「my DMM.make AKIBA」特集記事です。

 

あらゆる自動車にAIを搭載できるPyrenee Drive

――今回、シャープのIoTベンチャー企業向け量産支援サービス「量産アクセラレーションプログラム」を利用されて、製品の量産化に取り組まれていると伺いました。まず、どのような製品なのか教えて頂けますか?

三野氏「これが、AIドライブアシスタント『Pyrenee Drive(ピレニードライブ)』です」

AIアシスタント「Pyrenee Drive」。自動車のダッシュボード上に設置し、ステレオカメラで前方を監視するデバイスだ。

三野氏「電源はシガーライターのソケットから取るので、ユーザーが簡単に取り付けられます。前面にステレオカメラを搭載しており、道路上の人や車の動きを把握します。後部のドライバー側にはタッチパネル付の液晶ディスプレイと、ドライバーの状況を確認するためのインカメラが付いています」

ドライバー側には様々な情報を表示できるディスプレイやインカメラを備えている。

三野氏「ピレニードライブの大きな特徴として、このエッジデバイスの中でディープラーニングの処理をしています。NVIDIA製の GPUを搭載し、道路上の物体認識やその先の危険予測をリアルタイムでAI処理しています。

道路上のどこに自動車がいるのか、どこに人がいるのかを見て、その移動も追跡しています。毎秒10フレーム で更新し、ステレオカメラで距離を測っていますので、人と車の配置を3次元かつリアルタイムに捉えることが可能です。自動車やオートバイ、自転車、歩行者をちゃんと識別して、それぞれとの距離もリアルタイムで測定しています。

ドライバーの視野でちゃんと見えている範囲は、角度にして35度くらいです。これより外側にあると視界には入っていますが、しっかり見えている訳ではないので、気付くのが遅れたり、反応が遅れたりします。そういう場合でも早めに危険に気付けるように速やかに警告が出せるようにしています」

――合成音声で警告するんですね

三野氏「ピレニードライブのもう一つの特徴は、音声アシスタントを搭載していることです。危険を検知したときにアラームを鳴らすだけでなく、音声で具体的な警告を出して、ドライバーをサポートします。具体的には、前走車に急接近すればアシスタントの声で『追突注意!』という警報を出しますし、歩行者や自転車が接近してくると『歩行者注意!』や『自転車注意!』などと、具体的にドライバーに注意を促します。

他にも、インカメラを使って、ドライバーが眠くなっていないか、よそ見をしていないのかも、モニターしています。運転中によそ見をしていると、『前を見ないと危ないですよ』と注意を促します。

個々の音声アシスタントにはIDが付いていて、ユーザーごとにパーソナライズしながら成長していきます。ユーザーが利用してきた履歴や、運転の得意不得意なども含めて学習していきます。またアシスタントのセリフも、どうすれば効果的なのか、相手にすんなりと受け入れてもらえるのか、大事なことなので、ユーザーの反応をみながらオンラインアップデートを繰り返していく予定です」

――ピレニードライブを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

三野氏「僕は、前職でものづくりに関わっていたので、自分にとって作り甲斐のあるもの、例えばこれで人の命が救えるという製品、サービスを作りたいと思いました。

ピレニードライブで実現したいことは3つあります。1番の目的は交通事故を減らしたい。次に、車とのデータのやり取りや情報収集が可能になるコネクテッド・カーの実現、そして、自動運転関連のデータの供給源になることです。

実はピレニードライブに使っている技術は、自動車メーカー各社が研究を続けている自動運転と同系統のものです 。自動車メーカーは、自動運転を実現する制御技術として何年か先を目指して研究しています。でも、自動車を制御するという点を除いて、ドライバーのアシスタントとして活用するのであれば、すぐに実用化できることに気付きました。

交通事故の主な原因は、操作ミス、判断ミス、発見の遅れといった、ドライバーによるヒューマンエラーです。ピレニードライブは、自動車のブレーキを作動させるような制御はできませんが、危険を予測して警告をだすことができます。衝突しそうになった時点で作動する自動ブレーキに比べ、衝突するかもしれないという状況を判断して、早い段階で警告を出せるという点で、より優れていると思います」

 

量産化に向け、シャープの支援を求めたきっかけ

――2019年7月にシャープとの量産支援協定締結というリリースを出されています。シャープと組まれたきっかけを教えてください。

三野氏「シャープさんはAKIBAのスポンサーなので、以前から弊社の取り組みをご紹介するような機会はありましたが、直接のきっかけは2019年2月に立川で開催されたモノづくり研修『IoT.make Tachikawa camp』という、2日間のミニIoTブートキャンプに参加したことです。

そして、ピレニードライブの本格的に量産に向け、外部の生産会社さんとか量産設計の会社とかとやりとりをしていく中で、僕たちの知らないことがたくさんあることに気付きました。シャープさんに相談する中で、スタートアップとしっかり組んで量産まで着実にサポートするIoTベンチャー企業向け量産支援サービス『量産アクセラレーションプログラム』があり、僕たちの量産計画にもちょうどマッチするということで、協力をお願いしました」

――御社にとって、どのようなメリットがありましたか?

三野氏「一番は、量産に関する知見が身につけられるということです。量産向けに設計をしたり、量産の計画を立てたりするときに、何が必要になるのか、大手家電メーカーであるシャープでテレビやスマホの量産を経験されてきた方々が、高い品質基準で量産してきた経験に基づいて、僕らでは想像できないようなノウハウを教えてくれます。

量産品を設計、生産するためのノウハウは、ファブレスであるスタートアップにとって未知の部分だ。

ハードウェアスタートアップでは、『量産化の壁』に当たって先に進まなくなった、という話をよく聞きます。シャープさんのプログラムでは、今後想定されるリスク、品質面、トラブルなど、未然に防ぐためのポイントを教え、サポートしてくれます。是正するために元に戻ってやり直さなければならなくなると大変なので、これはとても助かります」

 

量産化の壁を乗り越えるために、大手メーカーが持つノウハウが必要

――具体的なサポート事例を紹介していただけますか?

三野氏「例えば、熱処理の設計をする、量産用の基板設計をするといった時、どこに発注すれば良いのか、候補先と話をして見積もりを頂いて、内容を確認して決める必要があります。外部の協力会社から見積もりを頂きますが、各項目に含まれているもの、含まれていないもの、そうした点について量産プロセスを熟知した目でチェックしてもらえる。僕らだけでは実際に進めてみないと分からないような点が、事前に確認できます。

設計や生産をお願いする協力会社とのやりとり、協力会社を選択する時、僕らが想定していたよりも数倍多いチェックポイントがあります。大手メーカーとして一般消費者向けに発売する製品の品質基準で、スタートアップが考えるよりも厳しい基準で見て、それを量産設計に生かすことができます。

他にも、量産用の部品選定についても、シャープさんのネットワークの中から、例えばカメラモジュールや液晶を供給している会社の紹介などのアドバイスが頂けます。特に自動車に搭載するピレニードライブには、一般の民生機器よりも厳しい車載基準が必要になりますが、それが満たされているメーカー、製品であるかということも考えた上で、きちんと品質を担保されているところを見つけてくれる、サンプルを取り寄せてくれたことに助けられました。シャープさんは、車載機器を開発、生産した経験をノウハウとして持っているので、それを生かされています」

――スタートアップという立場から、特に良かった点は何でしょうか?

三野氏「外注先として僕らがシャープさんに何かを依頼してやってもらうという形ではなく、僕たちの側に入って、僕たちが何をすればいいのか、同じ立場で考えて頂けるところです。社内での量産化計画の検討から、外部委託会社からの見積もり内容の妥当性まで、僕らでは経験がなくて分からないところを、同じチームとしてアドバイスしてくれるので助かります。

単なるEMSではなく、スタートアップの側に立ったサポートが望まれている。

僕も、弊社CTOの水野(水野 剛氏)も、前職で量産品に携わった経験はありますが、量産を専門にしていたわけではありません。大企業でしたら、それぞれの分野にエキスパートがいるのでしょうが、スタートアップではそうはいきません。僕たちに足りていないところを補ってもらえるのは大きなメリットです。

あと、何といってもありがたいと思うのは、僕らのスタートアップとしての状況も理解しようとしてくれているところですね。量産設計、品質の考え方にしても、大企業のやり方をそのまま適用しようとしても、無理なところもあります。それを完全に一緒にしようとしても、結局進めなくなってしまうでしょう。シャープさんは、大企業としての経験もあり、かつ知識も人数も限られているスタートアップを理解してくれているところが、やり取りをする上でとても助かっています。スタートアップが抱える状況を理解してくれて、さじ加減を考えながらやってくれるところですね」

 

お互いが足りないところを補完できる関係性の構築を

――大企業とスタートアップ、どのような形が一番良い関係だと考えますか?

三野氏お互いに無いところを補い合うことだと思います。大企業側は、高い品質での量産経験という、スタートアップが必要だが持っていないものを提供できます。ハードウェアスタートアップにとって、量産は本当に大変ですが、そうした経験、製品を開発するための技術を持っていて、提供できるメーカーは多いと思います。

スタートアップには、技術やアイデアがあります。例えば数千台のトラックを保有する運送会社であれば、自社トラックの事故を減らしたいという希望、切実な需要があります。僕たちは、トラック業界のこともトラックの運行方法もわかりませんが、運送会社と協力することで、僕らが持っているピレニードライブで事故が減らせるんじゃないか、コネクティッド機能を使うことで合理化、省力化ができるのでは、ということが考えられるようになります。

大企業には、スタートアップが持っている技術やアイデアを生かせるニーズがあり、スタートアップは、大企業が持っている製品化のための技術や経験で、足りていないところを補完できる。こうしたところに、スタートアップと大企業の協業が広がる可能性があるのではないでしょうか」

 


今回の量産支援にあたり、以前FACTでもお話を伺ったシャープの金丸和生氏からコメントを頂いています。

商品のQCDSE (Quality・Cost・Delivery・Safety・Environment)を達成した状態で、お客様に提供し、ご満足いただくことが私達の目標です。シンプルですが、これを実現するには、「量産化の壁」があり、私共メーカーも乗り越えるために、日々努力し、改善を積み重ねています。

今回、ピレニー様の夢であるピレニードライブの商品化においては、ピレニードライブを使用するお客様のことを考え、ピレニー様に寄り添いながら、私共の経験や技術・ノウハウを最大限に活用しています。

今後も、ピレニー様とは、ピレニードライブに留まらず、様々なイノベーションを一緒に起こしていけるのではないかと、熱く期待しています。

(取材・文:後藤銀河、撮影:越智岳人)

 

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