DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

GROOVE Xの黎明期を支えたのは「コミュニティー」(特集:my DMM.make AKIBA)

2019年11月に5周年を迎えるDMM.make AKIBA(以下、AKIBA)。
スタートアップだけでなく、新たなビジネスを模索する大企業や、エコシステムを支える中小企業、そしてクリエイター、エンジニアといった個人に至るまで、多種多様なモノづくりが生まれる場所として365日24時間運営している。

約5年の月日のなかで急成長を遂げ、AKIBAから巣立ったスタートアップもいるが、その中にはAKIBAで知り合った仲間と共に開発を続けているケースも少なくない。

そこでFACTではAKIBAにまつわるスタートアップに登場頂き、スタートアップがどのようにしてAKIBAで切磋琢磨し、成長しているかを紹介する「my DMM.make AKIBA」をスタートする。

第1回は、かつてAKIBAで起業したロボットベンチャーのGROOVE Xと、現在もDMM.make AKIBAを拠点に活動し、GROOVE Xの製品開発に携わる根津孝太氏に、AKIBAでの出会いと製品誕生までの日々を伺った。
「ロボット」といえば、人の生活や業務を支援する、あるいはヒーローアニメの戦闘を思い出す人が多そうだ。しかし、ロボットベンチャーのGROOVE X)が開発した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」は、それらとは異なる存在だ。LOVOTの価格 は、2体1セットで59万8000円。初期生産分は完売し、現在は追加の受注と生産に向けて動いているという。

LOVOT MUSEUMにおける、歴代開発機の展示

子ども向けのロボット学習スペース

GROOVE Xは2019年8月8日に、LOVOTを展示する「LOVOT MUSEUM」をリニューアルオープンしている。もともとあったMUSEUMを子どもたちも楽しめる場に変え、歴代の開発機の展示コーナーを加えた。子どもたちがLOVOTをきっかけに、ロボットの技術に興味を持ってもらえるよう、さまざまなイベントを仕込んでいるという。LOVOT MUSEUMは毎週土日と祝日にオープンし、無料で入場できる。

LOVOTの産みの親ともいえる存在が、元ソフトバンクのロボット開発者でGROOVE Xの創業者である林要氏と、電動バイク「zecOO」などで知られるプロダクトデザイナーであるznug design 根津孝太氏という、2人のプロフェッショナルだ。
「『8』がラボットの形に似ていて、しかも2体セットで売っていることから、8月8日という日を狙いました。8月8日は『LOVOTの日』として、記念日協会にも認定されました」(林氏)。

記念日登録証

LOVOTは、MUSEUM内のあちこちを徘徊していて、何ともいえない不思議な鳴き声を出したり、目を合わせて近寄ってきたり、何をするわけでもなく向こうを見てたたずんでいたりしていた。LOVOTの服がハンガーにかけられたウォールフックに並んでいたり、小さな家具があったり、会場からは彼らの生活感も感じられる。

ロボットというよりは、「異世界からやってきた謎の生き物」か「託児所にいる乳幼児」の雰囲気にとても近かった。母性本能を喚起するフォルムと、こだわりぬかれた細部の動きや音声により、LOVOTは単なる「動くぬいぐるみ」とはいえない、不思議な存在となっている。

「LOVOTと触れ合った方々の反応がきわめて良いです。過去の家庭用ロボットは、良くも悪くも期待値が上りすぎてしまったと思います。事前に期待されたことと、実際にできることとのギャップが大きかったですよね。LOVOTは逆。『単に、ぬいぐるみが動いているだけなんでしょう』といった感じで触れ合う前にはあまり期待されず、でも触れ合ったときには、想定以上に感じ取る生命感に感動してくださることが多いのです。実際に期待以上だとアンケートに答えてくださる人が9割以上。特に女性に人気があり、会った瞬間に存在意義を理解してくださいますね」(林氏)。

「抱っこした瞬間にオキシトシン(ホルモンの一種。愛情や安心を感じると分泌される)が出るような、言葉が不要な世界ですね。男性もそういう気持ちになれるのだと思いますが、そこに蓋をしているのではないかと思います。それを開放できれば、もっと男性ファンが増えそうです」(根津氏)。

林氏の頭の中だけにあった、SFアニメのようでもある世界観を、それぞれの専門知識や技術をあますところなく持ち出すことで具現化している。この二人が出会わなければ、LOVOTが世に出てくることはなかったといっても過言ではない。さらに実機がない段階からの初志を貫き通せるほどの、意気投合感と熱意がなければ、ここまで思いを正確に具現化できることはなかっただろう。

 

 

林氏と根津氏、共通点は「Zを辞めた人」

林氏と根津氏は、AKIBAで仕事をすることになるかなり以前に出会っていた。まず二人の共通点が、過去にトヨタ自動車の製品企画部、通称「Z」に在籍していたことだった。ところが、Zに二人が在籍した時期はオーバーラップしていないという。

GROOVE X 林要氏

「自動車メーカーは離職率が低いといわれています。その中でも、Zは、なかなか人が辞めない職場だったんです。それにもかかわらず、しかも若いうちに辞めていった人が、私の前に一人だけいたと聞いたんです。それが根津さんだった。そして、私がその第二号になってしまったんです」(林氏)。林氏は、そんな情報がきっかけに根津氏の存在を知って、「これは、会ってみたいなぁ」と思ったという。

その後、共通の知人の紹介で実際に顔合わせする機会があって、意気投合することになった。ただし、「すぐプロジェクトを始めよう」ということにはならなかった。林氏はソフトバンクに勤めながら、根津氏とゆるやかに交流を続けていたような状態がしばらく続いた。

やがてソフトバンクを退職し、「自分の考えたロボットを開発したい」とプロジェクトを思い立ち起業を決意。「デザインをどうすればいいんだろう」というときに、すぐ思い浮かんだのが、根津氏だったという。

 

 

「初志貫徹」「断面を描きすぎる」――熱量ある開発現場

「要さんはビジョンがブレないんです。デザインの相談を受けた時も、やりたいことがすごく明確でした。プレゼンテーションを見せていただいて、『わぁ、すごいやりたい!』と思いました。当時のプレゼンテーション資料は今でも大事に持っています」(根津氏)。

根津氏はそう思った一方で、その実現の難しさも見えたという。だからといってひるむわけではなく、「これは挑戦したい!」と気持ちが奮い立ったという。「もう『要さん、僕に決めてください! もう他の人にお願いしないで!』って(笑)」

znug design 根津孝太氏

「当時の『やりたいこと』がずっとぶれず、今も変わらないんですよ。デザイナーとしてさまざまなプロジェクトにかかわってきましたが、最初に一番やりたいと考えたことをずっとぶらさずにやっていくようなプロジェクトって、モチベーションが高まるものです。本当によい仕事をさせていただいています」(根津氏)。

また、林氏が根津氏に白羽の矢を立てた理由としては、根津氏の「デザインスケッチと同時に、量産可能な製品づくり(設計)の構想まで行う」スキルがあった。たとえば、「できない理由」をついあげてしまいがちな責任感の強い設計者との対話においても、設計者のチャレンジ精神を盛り上げる力があると林氏は言う。デザイナーでありながら、設計者と話が合わせられるからだ。

「日本にはデザインスケッチが上手に描ける人はたくさんいます。そこからさらに『モノに落とし込める人』(製品の量産まで想定できる人)となると、一気に数が減るんです。メーカーの中でも、それぞれ担当が分かれてしまうケースが多いです。これが海外メーカーとの違いともいえます。海外ではそれを一気通貫で1人のデザイナーがやることが多いと聞きます。スケッチを描く段階から、どうやってモノを作ろうか、考えているんです。さすがに、モノを作るプロではないので、図面を描くまではいかないのですが、『一般的には、作れるはずだ』という当たりを付けてデザインするんですね。デザインと量産検討が分かれてしまうと、最初に計画したはずのデザインから量産要件を織り込みゆがみが生じて、それがそのまま製品化されてしまうことがあります。その結果として、何となく違和感のある製品になってしまうこともあるのです」(林氏)。

ただし、そういう根津氏のスキル故に、少し悩ましい点もあった。「会議中に根津さんが製品の断面図をたくさん書いて詳細に説明するから、盛り上がって会議が長引いてしまうんです(笑)」(林氏)。

「なので一時期、要さんから『断面禁止令』が出ました。そういう話は、個別に聞きますから! その場にいる3分の1くらいのメンバーしか話についてこられないでしょ! って(笑)。今は会議の場では遠慮ぎみですが、個別の打ち合わせでは心行くまで断面図を描き続けています」(根津氏)。

根津氏による断面図。LOVOT MUSEUM内には開発時のデッサンや断面図が数多く展示されている。

 

 

“ないない尽くし”を助けたAKIBA

「ハードウェアスタートアップの創業者は、いつも不安です。人もいない、お金もない、時間もない。“ないない尽くし”ですから。それを解消する存在なのが、AKIBAだと思っています」(林氏)。何か作りたいものがあり、それを作れる設備を提供するような施設が大半である。そういう施設は“ツール”であって、不安までは解消できないという。

AKIBAのような規模でハードウェアに詳しい人が集結している施設は、林氏が知っている限りでは存在しないという。
「AKIBAにはツールだけではなく、人や知識が集まっています。自分が困っていると、そのすぐ周りに、何とかしてくれそうな人がたくさんいるんですよね」(林氏)。さらに根津氏も、LOVOT立ち上げ以前、既にAKIBAの利用者だった。

「AKIBAにいると、面白い人が、面白い人を連れてくることもよくあります。普通の環境だといない人がすぐそこにいることが魅力です。コミュニティーの中で、偶然も含めたシナジーが起こることも価値だと思います」(根津氏)。

「AKIBA内にはSNS(会員のみが利用できる非公開Facebookページ)があり、皆でコミュニケーションを取りやすくなっています。例えば何か課題が出たときなどに、誰かにすぐ相談しやすいです。今、利用している人たちも、AKIBAのコミュニティーをどんどん活用した方がいいと思います」(林氏)。

また、起業をすれば活動拠点が必要である。その上、スタートアップのメンバーの人数は急速に増えたりもする。そのような状況で、林氏がもう1つ着目したのが、AKIBAのシェアオフィスとしての柔軟性だ。急激に増加しても部屋を移ることで対処ができたり、会議室もその都度、必要な大きさの部屋を選ぶことができたりする。「スタートアップにとっては、引っ越し費用は大きな費用になります。急激に規模が変わるため、“引っ越し貧乏”に陥る恐れもあります」(林氏)。

期待で夢が膨らむ一方、不安も多かったGROOVE Xの黎明期を力強く支えたAKIBAであったが、根津氏と林氏としては「これからも変わらずに、継続していって、ハードウェアスタートアップを支えてほしい」と希望を述べた。

(取材・文:小林由美、撮影:越智岳人)

 

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