DMM.make AKIBA(以下AKIBA)は、マーケットスクエア川崎イーストで、こども向け常設展示・ワークショップ「モノづくり こども.ラボ」(以下、こども.ラボ)を期間限定で開催中です(会期は、2019年4月27日~2019年6月17日)。
15~18時と3時間ほどの時間で100人前後の方が来場され、大盛況です。デモ展示や体験ゾーンは、2歳から12歳くらいまでの幅広い年齢のお子さんが楽しめるように工夫されています。お子さんはもちろんなのですが、思いのほか保護者の方々が熱中して楽しんでいるという現場スタッフの声も。
テーマは「テクノロジーで遊んで学ぼう!!」
このラボのテーマは「テクノロジーで遊んで学ぼう!!」です。
AKIBAスタッフによる手作りなのですが、もちろんただの手作りではありません。モノづくりのプロたちによる“本気の手作り”です。
そして、このプロジェクトを仕切ったAKIBAスタッフの中には子育て現役のパパたちも 。日ごろ子育てする親の目線から、子どもにやさしい企画を目指しました。全AKIBAの技術力と企画力、さらに育児力を結集させて生まれたイベントだといえましょう。
さて今回は、そんなAKIBAスタッフたちの裏側の奮闘や思いを紹介します。3週間しかない準備期間の中、AKIBAはどのように動いたのでしょうか。
――こども.ラボ、盛況ですね。今回、プロデューサーとして、どう見ていますか?
真島隆大「今回は、子どもだけではなく、保護者の方々も一緒になって楽しんでいるのが印象的でした。子どもにルールを一生懸命説明しているうちに、自分までゲームに熱中してしまうという。親子の間でコミュニケーションが自然と発生するって、すごくいいことですよね。子どもと一緒になって遊ぶって、意外と簡単ではなくて……。子どもって結構マイペースなので、ついつい一人遊びさせてしまったりして(笑)。自分にも小さな子どもがいるので、とてもよく分かるのですが。自分自身も親子で参加したいと心から思うイベントになったと自負しています」
DMM.make AKIBAマーケティング・プロデューサー 真島隆大。自身も2018年に長男が生まれたばかり。
――いつもAKIBAで開催するイベントは、主に企業の方や技術者(大人)が対象だと思いますが、今回のような子ども向けのイベントを開催するのは珍しいですね。こども.ラボを企画するきっかけは何だったのでしょうか?
真島「この企画は、『マーケットスクエア川崎イースト』(マーケットスクエア川崎)内のテナントスペースを有効活用したいという東急不動産から依頼があって、誕生しました。
マーケットスクエア川崎は、競馬場に隣接した商業施設ということから高年齢者の来訪が比較的多いとのこと。とはいえ、学習塾や育児用品、子供服のお店もあります。高年齢者の方にも普段通りゆっくりと楽しんでほしいけれど、親子連れの人たちにももっと来てほしい、という思いからこの企画が生まれています。今回のこども.ラボを開催する前に、マーケットスクエアで、2019年4月6日に『ものづくりこども広場』(以下、こども広場)という単発のワークショップを開催しています。この時はAKIBAの会員さんである細田木材さんにペン立てづくりのワークショップを開催してもらいました」
――そのワークショップも盛況だったみたいですね。
真島「はい、大人気でした。5組10名の定員がすぐ埋まりました。実は今回のこども.ラボにも、その時に参加した方々が来てくださっているんですよ。こども.ラボもリピーターが多く、来場者さんがさらに来場者さんを呼ぶような状態です」
――こども.ラボの準備期間は約3週間くらいだったということですが、とても厳しいスケジュールですよね。AKIBAではどのように動いたのでしょうか。
山口潤「AKIBAの施設が24時間営業しているので、3週間で間に合った理由としてはそこが一番大きかったと考えています。AKIBAはスタッフの四交代制で24時間運営しています。企画が動き出し始めたらすぐに、AKIBA内のテックスタッフ全員にアイデアの募集をかけました。3日間で20のアイデアが出てきました。その後、企画の実現性について議論して絞り込み、製作にかけた時間は賞味1週間くらいでした」
山口「今回は、ターゲットや要件がこのように明確だったので、そこに一直線に向かってAKIBAスタッフでアイデアを検討する感じでした。AKIBAには3Dプリンターや切削加工機など、部品製作の設備も充実し、さまざまな分野のテックスタッフもたくさんいるので、アイデアさえ明確なら、すぐに形にすることができます。3Dプリンターでたくさん試作して、皆で、『ああじゃない、こうじゃない』と議論して、失敗作もそれなりに放出しながら(笑)、ワークショップや展示物を納得いくものにブラッシュアップしていきました」
DMM.make AKIBA のテックスタッフリーダー 山口潤
――企業での3Dプリンターの活用事例でも、よくそういうお話を実際に聞くんですよ。たくさん造形して失敗しながら、設計をブラッシュアップしたり、技術者さんの知識を蓄積したり。そういうことが、良品の製作につながったり、開発期間の短縮につながったりするものですよね。
山口「まさにそうだと思います」
――AKIBAでこのような、テックスタッフ全員で企画して動くようなイベントの企画は珍しいですよね テックリーダーとしても、取りまとめが大変だったのではないでしょうか。
山口「今回、納期は厳しくて大変ではありましたが、まさに文化祭に近いノリですごく楽しかったし、またやりたいです」
――今回、いくつかワークショープや展示物がありますが、それぞれの企画に応じて、テックスタッフを班分けしたりしたんですか?
山口「それはなかったですね。その日シフトで勤務している各スタッフが、限られた時間をやりくりして企画を行き来しながら作っていました。そうやって柔軟に対応しなければ間に合わなかったのでは思います(笑)」
――デザイン担当の仲川さんは、AKIBA3周年のノベルティーデザインも担当していますね。モノづくりに限らず、さまざまな分野のスペシャリストが一堂に集結しているのもAKIBAの特長でもあります。
仲川「はい、そうですね。私は主に、チラシやポスターのデザイン、会場で配布する説明書、内装デザインに携わりましたが、ワークショップの企画にも参加しています。AKIBAといえば3Dプリンターを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、大判ポスターが刷れるプリンターもAKIBAでは24時間使えるんですよ。だから思い立ったらすぐチラシやポスターを印刷したり、内容を差し替えたりが比較的柔軟に対応しやすいんです。私が携わるのはグラフィックデザインなので主に2Dですが、それを3Dデータ実物にしてくれる人たちが、そろっているのもAKIBAならではです」
DMM.make AKIBAのデザイン担当で、グラフィックデザイナーの仲川孝治。
山口「今回、展示やワークショップの内容も、お客さんの反響に応じて修正しようと思っていたんです。なので、チラシやポスターは1日目の分だけ用意してもらって、当日の様子を見ながら、必要に応じて修正する体制にしていました。でも実際、差し替えの対応はいらなかったですね。幸い、事前の企画通りに進んでいます」
――特に、会場で注目を集めていたものはどれですか?
真島「どれも満遍なく人がいましたが、挙げるなら『磁石で一本釣り!』と『ぐるぐるはぐるま』ですかね。『磁石で一本釣り!』は、磁石が付いた釣りざおを使って魚を釣り上げるゲームです。釣った魚の目が光るのですが、光の色で点数が加算されます。目が光るまで点数が分からないんですよ。LEDで光るギミックを入れるあたりも、AKIBAならではかと。『ぐるぐるはぐるま』は、いくつかある歯車を組み合わせて、いろいろな動きを楽しむおもちゃです」
山口「『磁石で一本釣り!』は、よく売られている魚釣りゲームのようにモチーフの魚の形じゃなくて、かなりリアルな形状なんです。今回は3Dプリンターで出すんだし、せっかくだから好奇心を湧き立てるものをと考えました。形状に特長がある魚を選んでいるんです」
『磁石で一本釣り!』で釣り上げる魚:さてこれは、何だ?
真島「大人の私たちから見ても、面白いですよね。『これ何だっけ? シーラカンスかな?』みたいに、子どもとの会話も弾みますよね」
仲川「よく売られているような魚釣りゲームを想像していましたが、まさか3Dプリントで出ていてびっくりしました。関わってる自分自身もすごく興味がわきましたね」
――子ども向けのイベントということで、安全面などいろいろと気は使ったのではないでしょうか。
山口「はい。割れやすいモノや、とがったモノなど、ケガに少しでもつながるようなものを作らないようにするなど配慮しました」
――子ども向けのおもちゃや雑貨の開発などで製造物責任(PL)法 に配慮するような感じですか?
山口「いや、厳密ではないですよ。ケガにつながる尖ったものや、誤って飲み込んでしまうような小さすぎるものを作らないように考慮するくらいです。『子どもが使うとしたら、ここがとがっていて危ないよね』と、みんなで議論しながら進めました」
真島「『ぐるぐるはぐるま』の歯車も、スタッフのアイデアでEVA(Ethylene-Vinyl Acetate 、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂:スポンジ素材の一種)を使っています。屋内の遊具施設やデパートの玩具店などで売られている歯車のおもちゃは堅いプラスチックです。子どもが投げたり、指を挟みそうになったりしますから、柔らかい素材なら安心ですよね。会場の保護者からも大変好評でした」
ぐるぐるはぐるま
山口「ちなみに、『磁石で一本釣り!』でボツになった1つが、イカでした……」
試作品:ボツになったイカは写真中央、下。確かに、刺さりそう
山口「3Dデータを画面で見ていた状態ではあまり気にならなかったのですが、いざプリントしてみると、足が結構、鋭いんですね……。『こりゃ、刺さって痛い!』ということで、却下になりました。皆、釣ってみたかったと思うので、すごく残念です。また当初、釣りざおにもセンサーを付けようと思ったんです。これも、頭の中やパソコンの画面の中では気になることはなかったんです。でも、いざ作ってみると、釣り糸の先が、やたら重たい(笑)。子どもって、こういうやつを振り回したくなるじゃないですか? で、誰かに当たったら危ないですよね」
釣りざおの試作品:確かに、重たい……
――まさに実物を試作して、実物に触れてみないとピンとこない問題もある……。メーカーの製品試作の現場でも実際にあることです。
製品開発においては、ユーザーの気持ちにしっかり寄り添って、開発者が心から楽しんで取り組むことが、結果としてユーザーの満足度へとつながるものです。また、それは1人の力でなすものではありません。それぞれの担当が、自分自身のプロとしての強み(知識や技術)を持ちより、それぞれの視点から議論しながら、アイデアを建設的に磨き上げます。AKIBAのみんなの団結力と技術力に、今後もぜひご注目ください。
(取材・文:小林由美)