DMM.make AKIBAのビジネスメディア「FACT」

シェアスペースは「生き残り」を目指すべきでない――共創をデザインするスペースとは

新規事業のチャンスを生む社外連携の拠点として、コミュニティスペースやシェアスペースに注目が集まっている。目的や運営形態も異なる多くのスペースが生まれるなか、どのような施設が真に必要とされ、目的を果たすことができるのだろうか。

家具のサブスクリプションサービスを提供するカマルクジャパンと、DMM.make AKIBAの共催で行われたイベント「【注目コワーキング企業が集結!】共創をデザインするスペースとは(2019年2月18日)」から、東京都内でこうしたスペースの運営に携わる担当者によって交わされたパネルディスカッションの様子をお伝えする。

 

イベント参加スペース

AWS Loft Tokyo

Amazon Web Service(AWS)を利用する個人・またはスタートアップであれば誰でも利用可能なスペース。
サンフランシスコ、ニューヨークに続く3つめの常設拠点として、2018年に目黒にオープンした。日中はコワーキングスペースとして運営されており、AWSの専門家が常駐する「Ask An Expertカウンター」では技術的な相談を常に受け付けている。夜にはテクニカルセミナーやイベントを定期的に開催し、スタートアップとデベロッパーの開発を促進する場として機能している。

Innovation Space DEJIMA

伊藤忠テクノソリューションズが運営するスペース。
大企業の中の新規事業担当者を主な対象として、業界の垣根を超えたコラボレーションを生むことを目的に運営されている。「Future Factory 〜アイデアを形に変える場所〜」をテーマに掲げ、まずは手を動かし失敗しながら進めるリーンスタートアップの手法を実践する場として、大小様々な企業をパートナーとして一年間で150回以上にも及ぶイベントを開催してきた。

Nagatacho GRiD

ガイアックスが運営する、月間2,000名程度が出入りする大規模なコミュニティスペース。全8フロアにわたる空間は、「新たな社会を構想する人がつながり、ビジョンや活動を共有するコミュニティ」を目指して幅広いユーザーに開かれている。利用できる施設もオフィス、会議室、イベントスペース、カフェ、駐車場、屋上と多種多様であり、地域に根ざした活動やPVの撮影など多彩な用途で利用されている。

DMM.make AKIBA

工作機械のある大規模な工房を構え、ハードウェアのものづくりを支援することを目指している。設立当初は主にスタートアップの利用を想定していたが、最近では大企業からの引き合いも増えてきている。ものづくりに関わるさまざまな人々のハブとしての役割を果たしながら、蓄積したノウハウを基にした研修なども提供している。

subsclife(モデレーター)

カマルクジャパン社が運営する日本初の家具のサブスクリプションサービス。デザイン性と機能美を兼ね備えたオリジナル家具や人気ブランド家具を月額500円から提供し、回収までサポート。自由で柔軟な家具との付き合い方を提案している。

パネルディスカッションにはInnovation Space DEJIMA(以下DEJIMA)の五十嵐知宏氏、Nagatacho GRiDの(以下GRiD)山口若葉氏、DMM.make AKIBA(以下AKIBA)の上村遥子ら3名が参加し、モデレーターの小宮明子氏(カマルクジャパン)からの議題に応える形で議論が進行していった。

 

シェアスペースの成果はどのように測られるのか

最初の議題は、KPIと運営体制について。
施設の運営にはコストがかかる一方で、コミュニティや活動の価値は数値に換算しづらい。具体的なコストと抽象的な成果のあいだで、社内からの合意はどのように得られるのだろうか。

五十嵐「DEJIMAは会員利用料を取らずに運営しているので、利用料収益とは別のKPIを設定する必要があります。
会議室や交際費の代わりになるとして、無理やり費用に換算して立てつけることもできますが、『スペースを運営したから〇〇円のリターンがあった』という単純な構造にすると後が辛くなる。常に数十個くらいの施策が並行して進んでいるので、それらすべてをまとめてDEJIMAのコストだと言い切る代わりに、3年後には新規事業ができると伝えています」

上村「AKIBAは立ち上げに10億円かかり、24時間365日50人のスタッフが働いているので人件費も高額です。
その一方で単純なマネタイズではない部分の価値を会社からは高く評価されています。
累計で約80億円の資金調達をしたGROOVE Xという企業がありますが、AKIBAは彼らの活動のスタート地点でした。AKIBAの利用者が色々なものを生み出し、それが外部からの高い評価に繋がっているので、単純に『マネタイズできないから閉める』という展開にはなっていません

Nagatacho GRiD GRiD担当者 山口若葉氏

山口「運営2年目に賃料やメンテナンス費などすべて含め、単月で黒字を出すよう目標が設定されました。利用者の紹介やイベントを通じて参加する人が多く、広告費が一切必要ないことに助けられ、今ではなんとか黒字の月も出るようになっています。12月や3月はクリスマスや送別会などで利用が多いのですが、1月やゴールデンウィークなどの祝日は使われないので、ぜひ使ってください(笑)」

 

スペースの立ち上げ期に起こること、すべきこと

会場にはこれからコミュニティスペースを立ち上げたいという来場者も多く集まっていた。スペースを立ち上げるために準備すべきこと、心構えしておくべきことは何なのだろうか。

Innovation Space DEJIMAシニアプロデューサー 五十嵐知宏氏

五十嵐「場所を作ってから半年くらいは人が殺到します。社内外含めて一つずつ個別に対応する必要があるし、場合によっては嫌われ者になることも覚悟しておいた方が良い。世の中には色々な人がいるので、良くも悪くも想像を超えたことが起こります。想定してもしきれないですよね」

山口「スペースをオープンするとき社内のメンバーを説得しようとしても、反応は千差万別でした。なにかに取り組む前に議論を重ねていた時期もありましたが、皆を説得しようとしたり、迷ったりしている時間はそのままお金のロスになります。今は大きな決断だったとしても、費用を試算して取り組んでみて、その後に継続するのか打ち切るのかテキパキと判断するようにしています」

上村「AKIBAでは立ち上げ時にものづくりに必要なものを全部揃えて、『設備が無いから作れない』という言い訳ができない状態にしました。
新しい使い方や会員さんとの出会いは、そうした準備があるうえで初めて見つかるものだと思っています。
オープン当初は無料だったこともあり多くの人が押し寄せましたが、その中でも筋が良さそうな人たちには、スタッフや会員としてしっかり居続けてもらうように働きかけました。『このスペースから何か生まれている』ことを見せるためには、最初の盛り上げやスタープレイヤーは運営側でプロデュースする必要があります

 

コミュニケーターの必要性とキャリアパス

利用者の活動を支援したり、交流を促したりする役職は「コミュニケーター」と呼ばれている。だが、「プロのコミュニケーターと名乗る人を雇ったが、まったく機能しなかった」(山口氏)という経験が示す通り、ただコミュニケーターを置けばうまくいくわけでもないようだ。

山口「私はもともとコミュニケーターとして活動していましたが、後任も置かずに“明るく廃業”しました。GRiDのユーザーはそれぞれが生き方や働き方を考えて活動しているので、人のつながりやコミュニケーションというソフトの部分はその人たちに任せるようにしたんです。コミュニティを作ることにKPIを置きにくいという面もあり、私たちは設備やシステムなどのハードに費用をかけるようにしました。利用者の希望に応えてハードを提供していくと、段々とGRiDに愛着や帰属意識を持つ人が増えていきました」

五十嵐「DEJIMAにも専業のコミュニケーターは置いていません。そもそも、コミュニティを作るのは目標(What)を実現するための手段(How)であるはずで、最初からコミュニティありきで考えるのがおかしな話。DEJIMAには5人のプロデューサーがいますが、例えば特定のAPIを掘り下げたいだとか、そうした自分達のやりたいことを実現するためのコミュニティを作って、その活動のベースがDEJIMAにあれば良いと思っています」

DMM.make AKIBAコミュニティマネージャー 上村遥子

上村「AKIBAには『ものづくりでビジネスをしたい人を応援する』という明確な目的があるので、それを促進するためにコミュニケーターは必要だし、うまく立ち回らなければいけません。具体的には、会員さんが普段何をしていてどんな出会いを求めているかを積極的に聞き出して、自分の知り合い同士を繋げていきます。ものづくりをする人にはコミュニケーションが苦手な方もいるのですが(笑)、積極的におせっかいをしてうまく繋げてあげると、その人たちはどんどん次のステップに進んでいきます。

コミュニティマネージャーになったことで仕事の幅も広がりました。一見しただけでは分かりづらいAKIBAの価値を伝えるために色々な場所でプレゼンテーションしていたら、『その話を聞かせて欲しい』と講演の依頼をいただくようになったんです。AKIBAの出来事を語り継ぐこと自体が、新しい仕事やキャリアに繋がったと感じています」

山口「やることや出会う人の幅が広がるのはコミュニケーターが得られる大きな価値だと思うのですが、私はずっと続けていくイメージが持てずに苦しんでいました。今はコミュニケーターという仕事は、自分の次のキャリアを考えるためのプロセスだったと捉えています。今後他の人と何かに取り組む時に、コミュニケーターとしての経験を生かしていきたいです」

 

目指すのは「生き残り」ではなく、スペースの価値の言語化

ディスカッションの最後には、「コワーキング産業は既にレッドオーシャンになっていないか?」「コワーキング運営は儲かるのか?」という会場からの質問を皮切りに、スペースを運営するにあたって最も大切にすべき価値観が語られた。

上村「たしかに共創スペースの活用はトレンドになっていますが、『生き残りたい』と考えることには違和感があります。生き残るという表現は、スペースの運営だけでマネタイズしようという考えに基づいていますよね。マネタイズ云々よりも、まずは自分たちのスペースの価値をはっきりさせることが大事。そうすれば、スペースのキャラがはっきりと立ち、少なくともその価値に共感する人たちは集まってくるはずです」

五十嵐「場所を作るときにはストーリーが必要です。そのストーリーを一人で作るのか、一社で作るのか。もしくは外部の方と一緒に場所自体を共創するのも良い選択肢かもしれません。熱量のある個人やストーリーが場所の重力を作るので、スペースが俗人化するという課題は発生しますが、会社と会社のような形式的な付き合いから共創は生まれないので、個人への依存が生じるのは仕方ないことだと捉えています」

山口「運営側はもちろん、スペースに参加する方々も一人一人のストーリーを持っていて、私たちはそれをさらに輝かせることに注力しています。スペースの運営を通じて、どれだけ利用者に所属意識を持ってもらえるかが重要になってくると思います」

上村「本当にストーリーが大事ですよね。作ろうとしているコミュニティやスペースが生み出す価値をはっきり言えるまで議論するべきだし、もしそれで見えなければ作らないほうが良い。言語化された価値に皆が共感して、熱量が集まることによって、そこから新しい共創やネットワークに繋がっていく。個別のコミュニティの価値がはっきりすれば、コミュニティ同士をつないだ横のつながりも生まれやすくなると思います」

単なるマネタイズに終始しない、コミュニティ独自のストーリーや価値を言語化することの重要性が示されたパネルディスカッション。イベント終了後にもこれからスペースを立ち上げようとする来場者と登壇者の盛んな交流が行われていた。

一般的に考えると、スペース運営という点でいえば競合ともいえる各社がノウハウを共有していくことにリスクを懸念する人もいるはずである。
しかしながら、スペースを横断的に見てきたモデレーターによって各社が集まり、第三者視点も交えた新しい気づきが引き出されたことは大きなプラスになったと言えるだろう。

全てのコミュニティのスタートが新しい出会いと交流にあるとすれば、スペースを運営する側の思いや違いをオープンにシェアすることで、単なる競合関係を越え、コミュニティという大きな枠を繋げていくことになる。スペース運営者が大切にする「横のつながり」がきっかけとなった今回のイベントで生まれた出会いが、また新たな共創にも繋がっていくだろう。

(取材・文:淺野義弘)

DMM.make AKIBA イノベーションスペース立ち上げ支援サービス

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